11.哀しきあの夏の思い出よさらば

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 秀は頬を撫でさすって、照れ隠し混じりに答えるしかない。 「そんなの……当然に決まってるだろ」 「……本当に?」 「……なんだよ」 「いえ、……まるで、夢を見ているような気分で」  感極まって緩んだ口元を引き締めた雪彦の真剣な眼差しが、再び秀を射る。その鋭さと重さに、秀は思わず身を引いた。 「どんなことがあろうとも、もう簡単に離れたり、逃げたりしません。言い訳せずにあなたに真摯に向き合います。だからあなたも、どうか俺を放さないで」 「……ああ」 「裏切ったら、殺してくださっても構いませんよ?」 「物騒なこと言うな」  どうやったらそこまで思考が飛躍するのだろう、と困惑を隠せないでいると、 「いえ、わかってます……色々と確かめたくて意地悪を、つい。やっぱりその反応って照れてるんですよね、不機嫌なんじゃなくて。素直じゃないのは相変わらずですね」 「うっせーな」  久しぶりにはにかんだ雪彦を見て、思わずシャッターを切る。そこでふと、これまでに見てきた様々な光景が瞼の裏側で弾けた。  一面の銀世界に慎ましく色を添える真っ赤な海石榴。  燦燦と降り注ぐ日差しを受けて揺れるひまわり畑。  レンガ造りの建物。漁港。エメラルドブルーの湖面。濁った温泉  パンをかじる白鳥。真っ赤に熟れたさくらんぼ。  渓谷の水面を漂う紅葉。ダブルピースで微笑む稔と理。  小さな雪だるまを手のひらにのせた雪彦。 「……ああ、そうか」 「?」 「写真を撮り始めた理由を思い出した気がする」 「へえ?」 「俺が目にしてきた色んなものを、お前にも見せてやりたかったんだよな」
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