1.最悪の再会

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1.最悪の再会

 初めて自分のカメラを手にしたのは、八つの頃だったと記憶している。厳しい父に泣いてせがんで、使わなくなったフィルム式の一眼レフを譲り受けたのだ。手入れは最低限しかされておらずガタが来ていたけれど、子供には過ぎた代物だった。けれどあの時、写真を撮ることの楽しさに目覚めなければ、今の自分はいないだろう。  吹き抜ける潮風を全身で受けて、真新しいデジタル一眼の液晶パネル越しに、夕日の沈みかけて燃え盛る海を見詰める。周囲に広がる砂浜もほのかに赤みがさして、最高のロケーションだった。  ここ須子島(すじしま)は、本土からフェリーで三十分、県の最南端に位置している。黒潮の恩恵を受けた豊かな漁場から水揚げされる滋味のあふれる海産物と、手軽にマリンスポーツを楽しめることで首都圏の観光客に人気の風光明媚な観光地である。  秀がこの土地に移住してから二年の歳月が過ぎた。高校を卒業後、勤めていた就職先がすぐにつぶれてしまい、あてもなくふらふらと旅をしたりして暮らしていた。たまたま流れ着いたこの島の観光協会に勤めている。  今日も仕事の側ら、島内を巡ってはシャッターを切る。写真を撮ることが好きなのは確かだし、将来的には写真一本で食べていけたら、という願望もあるが、どうしてこんなにこの島の景色に心惹かれるのかは分からない。美しいのは事実だ。ただ、他にも海の綺麗な土地はたくさん見ている。にも(かか)わらず、ここに居ると、なぜか全てをフィルムに焼き付けておかなくてはならない、という気分にさせられる。  妙な郷愁さえ覚えていた。実家は町から車で四十分ほどかかる、山奥の日本家屋だったのだが。
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