作詞じゃない策士:星埜銀杏

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作詞じゃない策士:星埜銀杏

 …――最後のコインに祈りを込めてミッドナイトDJ。  ボボボ。  とノリノリで同じメロディラインが繰り返して音の低いベースで演奏され続ける。  耳をつんざくかのよう音量。 「オッケッ・テンキュッ!!」 「テメェら、愉しんでるか?」  オッケ。 「このライブの最後に感謝の意を込め、この曲を送るぜ」 「1999年7月、今しかない熱い夏を愉しんでくれッ」 「最後の夏を思いっきりな。逝くぜ? 準備はいいか? Fear・Great・Kingからの熱いビートだぜ。心の奥底に刻んで逝けッ! 全人類に向けてッ!」 「ラストを飾るは、曲名、最後〔なみだ〕のリクエスト」 「ヨロシクッ! イェイー!」  遺影ッ! ***** 最後〔なみだ〕のリクエスト。  …――最後のコインに祈りを込めてミッドナイトDJ。  海の町。海岸沿い。  最後に行き着く場所。アタシの最後の場所に相応しい。  近くに電話ボックス。トランジスタラジオ片手に中へ。  7月始め。アタシの恋最後となる熱い夏。  アタシは引っ越す。明日。だから彼と会えるのも明日が最後。想いを伝えたい。いや、伝えられない。彼には。だったら。アタシは彼の思い出の中で生きる。彼の人生の最後まで生き続ける。その為にと最後のプレゼント。想いを乗せた最後の。  今は無きブランド最後の品。それがアタシからの最後。  ナンバーナインのミルク・クッキーズ・エンドVer。  黒いT。  彼との思い出作りには打って付けな最後のプレゼント。  最後のコインを入れてダイヤルするよ、あの人に伝えて、まだ好きだよ、と……。  アタシから想いを彼に伝えて。電話は巡る。ぐるぐる。どこにいるの。なにをしているの、と気持ちを代弁するかのよう。でも、いくら回り続けても、巡り続けても、そこからは。彼には、たどり着けない。たどり着かない。最後の最後まで……。  だから電話を切る。悲しく。  ラジオのヴォリュームあげてから彼と最後に踊った曲をリクエスト。  彼と最後に踊った曲を……。  だけど、流れて出てきた曲は、さよなら。  最後のリクエストでの、曲は、さよなら。  それは彼からのリクエスト。  冷たすぎる。酷い仕打ち。最後の最後に。  そして、送った銀のロケットを思いだす。  結局、それが最後のプレゼント。中には今では違う女〔ヒト〕の写真。彼の最後の女〔ヒト〕。アタシとは違う、どこかの誰か。いいよ。その女〔ヒト〕と抱き合いながら悲しい恋を笑ってよ。アタシにとっては最後の恋だった、その悲しい恋を。  でも忘れないでね。  アタシを。お願い。忘れないで。笑ってもいいからさ。  涙のリクエスト、最後のリクエスト。さよならになってしまった涙のリクエスト。  最後のリクエスト。  波間に消える寂しい夏。この場所での最後の夏。彼との最後の夏。淡い恋の物語のラスト。かっこつける。女のアタシが。最後だから。さよなら、の、あの曲のメロディを口笛にして空に飛ばす。広い青に溶ける。消えて亡くなる。泡のように。  もしも。  そうっ。  もしも、あの女〔ヒト〕に、最後のヒトにフラれた時、同じ歌をリクエストして。  それで、もしも、さよなら、がかかれば。  ラジオから、あの、さよならが流れれば。  あなたを迎えに行くわ。駆けてゆく。どこにいても。なにをしていても。……なんて最後の最後まで未練がましい。ごめんなさい。でも、これで最後だから。もう二度と会わないから。アタシは彼からもらったメモリーリングを手に取る。そっと。  彼との愛を誓ったメモリーリング、曲に合わせて、海へと投げるよ。  もう、これで本当の最後だって自分に言い聞かせて。ごめんね。ごめんなさいと。  さよならが終わる。  トランジスタラジオからの曲が、終わる。  さよなら、と……。  静かに。  アタシは、最後に自分の気持ちに、さよなら、する。曲の最後に合わせて。良かった。最後に聞けたのが、この曲で。アタシの恋の最後に聞けた曲が、この曲で。この曲を、アタシの気持ち、さよならの代わりに二人に送るよ。だから忘れないで。  アタシを。お願い。忘れないで。笑ってもいいからさ。  涙のリクエスト、最後のリクエスト。さよならになってしまった涙のリクエスト。  最後のリクエスト。  悲しい恋のリクエスト。アイ・ラブ・ユー、さよなら。  ガーガーガー・ピー、ホントの幸せ教えてよ、壊れかけのレデオ。テンキュッ!! ***** お終い。 「オッケ」 「愉しんでくれたか? 俺の熱きソウルを感じてくれたか? 最後〔なみだ〕のリクエストで燃え尽きてくれたよな? だからアンコールは受け付けないぜぇ!」  遺影ッ!  じゃぁ、 「これでラスト。終わりだ。本当の最後。打ち止めだぜ」  さよなら、人類ッ!  とライブの主であるFear・Great・King〔直訳:恐怖の大王〕が叫んだ。次の瞬間、彼が持つ楽器から超大音量のビートが地球に向けて発せられた。それは音響兵器など遙かに凌ぐもの。その大音量によって地球は粉々に砕け散った。  人類滅亡。そう。これこそが人類にとって最後の日の出来事〔ライブ〕であった。  壊れかけのレデオから流れ出てくるノイズとも聞き紛うような大音響こそが……。  チーン。  お終い。
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