51人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
25.異端者と決断
初夏にしては時期違いの寒さの風を受けながらミナミはダイがいると思われる門の近くの酒場にたどり着いた。
2階建ての木造で、ここは村唯一の酒場であり、時折来る客人の宿屋も兼ねている。また何か有事があった際は村長の家かここで村人たちは会合を行うことになっていた。
ミナミは勢いそのままに店の扉を開いた。あまりの衝撃に、年季の入った木の扉は危うく壊れるそうであった。
「村長はいるか!?」
ミナミは入るなり、店中に響く声でダイを呼ぶ。
すると奥のテーブルで村人たちと会議をしていたダイとクレタスがそれに気付き、驚いた顔で近付いてきた。
「どうしたんだあ。ミナミ?」
まず口を開いたのはクレタスだった。
治療を受けて間もないというのに既にピンピンとしている。今は自分が壊した門の修繕を終え、さらなる改良案を村人たちと話し合っていたのである。
ミナミは膝に手を置き、息が整わないうちに話し始めた。
「今…ティルたちと話してて…村人を…この村から少しでも…逃がせって…」
ダイがミナミを椅子に座らせる。
「ユキ!悪いが水を持ってきてくれ!……それでどういうことなんだ?村人を逃がせとはどういうことなんだ?」
ダイはミナミの様子からただ事では無いことは察している。
ミナミはユキというこの店の店主から水もらい、一気に飲み干し、息を整えてから再び事情を説明し始めた。
「正直、私にも詳しくはわからないけど、サチとティルとでグレンの家に行って、それから変なメモを見つけたんだ。それからティルがこのままだと次は村が襲撃されるって!次は本格的に!だから村から少しでもいいから離れろって」
一気に話したせいか再び息が上がる。
ダイとクレタスは説明を聞くとお互いに顔を見合わせた。
「それは確かなのかあ?」
クレタスが再びミナミに問いかける。
「いや、ティルにも絶対の自信があるわけじゃなさそうだった……でもわたしは信じることにしたんだ。あいつはこの村のために一生懸命動いてくれてる。金のためかもしれないけど少ししか過ごしてないけどわたしは信じるよ。」
ミナミの目は真剣だった。
周りの村人たちも静かにミナミの言葉に聞き入ったあと、何人かで相談するものや、一人で考え込む者など反応は様々で店の中は喧騒に包まれた。
「みんな落ち着きなよ!それで、村長はどうするつもりなのさ?」
店のカウンターから一際大きな女性の声が響く。
その声の主はこの店の店主ユキであった。
長い黒髪を後ろに束ね、店主と言うには若い印象を受ける見た目の女店主の一言により彼女よりもさらに年上の村人たち一気に静まり返った。
普段から村人たちは彼女に頭が上がらないのだろう。
店内が落ち着いたのを見計らってダイが口を開く。
「村から逃げろ……正直、今すぐに決められるようなことでもない、それに準備も必要だ……しかしティル殿の言うことが起こった後では取り返しがつかない……」
ダイは目をつむり、額に手を当て思案する。そして一呼吸置き、ゆっくりと声を発した。
「クレタス…北の山の麓に猟のときに使う小屋がある。そこを一時避難所として使うからお前は魔法で村人たち全員が雨風をしのげるようなモノを作ってくれないか?」
クレタスは「分かった」とうなずく。
「他のみんなは今すぐに帰って準備をして出来次第、避難してくれ!スタンはいるか?」
するとカウンター席でことの成り行きを見守っていたスタンが立ち上がった。
「どうした?」
スタンが自分の役割を確認する。
「スタンとミナミはアカツキを呼びに行ってきてくれ、そして3人で馬車を使って子供や老人を乗せて麓まで避難してくれ。」
ダイが指示を飛ばすと二人はすぐに店を出て、アカツキの家に走り出した。
「村長!私も馬で村の奴らに言って回るよ。そのほうが準備も早くできる。」
そう言ってユキはエプロンを投げ捨て店を出た。
(さすがの行動力だな……)
ダイはユキの決断力の速さに感心しながら残った村人たちに声をかけた。
「さあ!俺たちもやるべきことをするぞ!」
数分後、店に残ったのは飲みかけの酒瓶だけであった。
最初のコメントを投稿しよう!