座敷童姫の素顔

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 赤宮さんの素顔を撮った写真はねえの? と塾仲間からよく聞かれるが、僕のスマホのフォルダにそんなものはもちろんない。  だが、僕とて待っていたばかりではない。そのチャンスを作るべく行動を起こしたことはある。 「ねえ、ピザを食べに行かない? 新しい店がオープンして」  いつだったか、塾帰りに彼女を食事に誘った。食事をすれば、必然的にマスクはとる。カメラに収めることはできなくても、記憶に保存することはできる。そう考えたから。 「ごめん。ダイエット中だから無理」  まあ、あっさりと一蹴されてしまい、無言のまま帰路に着く羽目になったが。  そうこうしているうちに、気づけば、卒業間近となっていた。高校を卒業すれば、赤宮さんと会うこともないだろう。つまり、二度と素顔を拝めなくなる。そうなれば、一生後悔してしまう。  僕は意を決し、赤宮さんが一人になったところを見計らい、声をかけた。リベンジをするべく。    ※※※  で、話は最初に戻る。  素顔を見せて欲しい、という僕の直球なお願いに対し、彼女がくだした条件。それは……。  熱くなった鉄網の上で、赤い肉たちがじゅーじゅーと音を立てながら色を変えていく。眺めているだけで食欲がそそられる。 「さすがに一人焼肉は勇気が出なくて。かといって、女子だけで行くのもなー、って思ってたんだ」  肉を次々とひっくり返しながら、赤宮さんはしゃべっていた。その口もとに、マスクはない。  僕の思ったとおり、やっぱり赤宮さんはマスクをはずしても美人だった。笑えば、えくぼができてチャーミングにもなる。なんてズルい人だろう。 「焼肉につきあうだけでよかったの?」  僕の素朴な疑問に対し、赤宮さんはうんうんとうなずく。というのも、その頬は肉を食べすぎてパンパンに膨らんでいる。先ほどから、彼女は怪物じみた勢いで肉に食らいついていた。二時間食べ放題を選んだから仕方がないのだけど。  そのあまりの食べっぷりに、僕は箸を動かすのも忘れるぐらいであった。
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