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「あ、今日の当番はお嬢の班でしたか」  やってくるなりそんな声をあげるのは、昔なじみの人間だからだ。 「お嬢と呼ぶな」  アニエルカはじろりと一瞥すると、そう冷たく言い放つ。じっとしていても汗ばむような気候のなか、無駄な言い争いは控えたい。だが、相手が彼であるならば、何をしなくても文句の一つや二つを口にしたくなるのだ。 「失礼しました。アニエルカ班長」  失礼したとは思っていないような口調である。このような暑さでも、涼しい顔をして、汗一つかいていないのが憎たらしい。 「家名で呼べ」 「はいはい、ルイガン班長」  アニエルカはチッと激しく舌打ちをした。彼が来るまでには他の団員たちもなんとか落ち着き、この現場には関係のない者が立ち入れないようにと、動き出すことができていた。  アニエルカを『お嬢』と呼んだ男は、魔導士団の男である。名を、ディーター・ネリウスといい、魔導士団の中でもトップスリーに君臨する魔導士らしいのだが、何分、言動が軽い。  軽いのは言動だけではない。見た目も軽い。銀白色の髪は、強い太陽の日差しをきらきらと反射して輝いている。碧色の目はどこか色気を放ち、その下にある泣き黒子が巷の女性を虜にしている。  魔導士団とは国家魔導士の集まりの集団である。アニエルカが所属する騎士団と違い、彼らは魔法を使う。魔法とは自然の力を借り、それを増幅させるもの。  アニエルカとしては魔導士を嫌っているわけではない。ただ、彼の見た目が気に食わないのだ。だが、彼を気に食わない理由は他にもある。  ディーターは、昔のアニエルカを知っている人物である。それが一番の理由だった。
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