プロローグ

1/1
43人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ

プロローグ

 うだるくらいに暑く、日差しの強い日の午後のことだった。  王都の東の区に変死体があがった。変死体は二十代の女性と女の子の乳児と思われる。  その知らせが騎士団に届いたため、第二騎士団の第三班の十名がその場に駆けつる羽目になった。  第二騎士団はこの王都の警備を行うのが主な仕事である。今日は、第二騎士団のなかでも第三班が警備待機日であった。何事もなければ待機だけで仕事は終わるが、もめ事等が起こった時には現場に駆けつけて、その場を丸く治めるというのが今日の仕事であった。  だから、幸か不幸か、はたまた大不幸か。変死体の通報を受けたため、彼らは現場に向かう羽目になってしまった。  死体は変死体と表現されるくらいだから、自然死には見えない。むしろ、不自然だから、変死体と呼ばれる。  この変死体からわかるのは、彼女たちは自死ではなく他の誰かの手によって殺されたということ。それが一目でわかるような死体だった。彼女たちがどのような姿で亡くなったかを表現することすらはばかれるような変死体なのだ。  その変死体を目にしたときに、駆けつけた第三班のうちの九名が吐き気を感じ、そのうちの五名が実際に嘔吐した。それだけの団員がそんな情けない状態を晒しているにもかかわらず、一人だけ凛としてその死体を見つめている女性がいる。  彼女は第二騎士団第三班班長、アニエルカ・ルイガン。耳の下で短く切り揃えた髪はじりじりと太陽の熱を吸収し、宝石のような青い瞳を鋭く光らせている。男性が多く活躍するこの騎士団の中で数少ない女性騎士であり、さらに班長という地位まで辿り着いた女性である。 「魔導士団を呼べ」  彼女は静かに言い放った。その顔は、苦虫をかみつぶしたかのように奥歯をギリリと噛み締め、青色の瞳は怒りの色で染められていた。  額から一筋の汗が伝う。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!