《215》

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「兄上がこの場に居ないということは私にとっては好機です。ここで父上の覚え目出度い活躍をすれば私は次期当主になれる」 「つまらぬ事を考えるな」 直政は言った。眼は赤備えから動かしていない。忠吉と眼を合わせたら張り倒してしまいそうだ。 「お前は初陣だ。眼の前の役目を果たす事だけを考えろ」 「兄上も初陣なのですよねぇ。決戦の場に遅参する長男、決戦の場で大将首をあげる四男、何やら物語が生まれそうだな」  直政は赤備えの傍に馬を進めた。忠吉がついてきたら馬から突き落としてやろうと考えていたが、ついて来なかった。自分の持ち場に戻ったようだ。赤備えは3千に増員されていた。皆、肩から火縄銃をぶら下げ、馬鞍には槍が括りつけられている。直政の居る位置から西に半里(約2キロメートル)行った所に家康の本陣が構えられている。忠勝はどこにいるのだろうか。直政はふと考えた。忠勝の事だ。きっと家康のすぐ傍にいる。味方に劣勢の場所あれば、きっと忠勝は風の如く現れ、たちまちのうちに戦局を一変させてしまうだろう。直政自身、何年経っても、その存在に頼りきりだ。常に、背中に盾を付けて戦っている。本多忠勝が味方にいるというのは、そういう事だった。  半刻(約2時間)後、大きな喊声が直政の耳に届いてきた。 「どこだ」 直政は音声を発した。 「福島正則隊です」 赤備えの騎馬が叫ぶ。 「西軍、宇喜多秀家とぶつかり、戦闘が始まりました」  近かった。福島正則の部隊は東、一町(約990メートル)と少ししか離れていない。
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