白玉あんみつ!

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 .。. .。.::*・☆・*:.。. .。.: 「みっ……くん。寒い……」 「あん……ちゃん、しっかり……。ほら、ここに……」  吹雪の中、小さな小さな幼なじみの餡を俺は自分の体ですっぽりと包んだ。  初雪が降ったその日。はしゃいだ餡を追いかけて、いつも遊ぶ山のずっと奥へと踏み込んでいた。そして気が付いた時には辺り一面猛吹雪で完全なホワイトアウト。 「でも、これじゃみっくんが、凍っ……」 「だ……ぃ、じょ……」  斬られるような寒さに朦朧とし始める。かろうじて意識を保っていられたのは、ひとえに大事な餡を守りたかったから。 「みっくん、あったか……すべすべ……きもちぃ……」 「餡、も……あったか、ょ……」  幸せだった。  本当にふわふわ暖かくて柔らかくて、ちょっとくすぐったくて。餡を守っている誇らしさで天にも昇る心持ちで。  それはきっと、凍え死ぬ間際の走馬灯みたいな現象だったのかも。 「みっ……く、ん……」 「…………」  意識が途切れかけたその時。 「……いた! おおーい、いたぞーー! こっちだ!」 「蜜也(みつや)! 餡お嬢さんは!?」 「…………」  親父のだみ声を聞いてホッとしたのか、それからの記憶はない。 「ここか! ……餡さま、しっかりしなせえ! おおーーい、無事だぞーー……」  ギリだった。本当に凍死する寸前で俺と餡は探しに来た大人たちに発見されて一命をとりとめた。  幸い餡は怪我ひとつなく、風邪すらひかず。 「──まあ、おめえはよくやったよ」  俺はひどい凍傷で三日三晩熱を出してうなされた。  まだ寝たきりの俺の枕元で親父が独り言のように続ける。 「おめえが危ないって言ったのも聞かずに、お嬢さんが雪山に行っちまったんだろ? 一緒に遊んでたチビどもが証言してる。運がよかったな」    その証言がなければ、しがない村工場(むらこうば)の息子ふぜいが総領家の〝白玉 餡” お嬢様を危険な場所に誘いこんだ事になっていたはず。  そうなっていたら……考えると今でもゾッとする。  それほど総領家として何百年も続いてきた白玉一族は強大な力があるのだ。いろんな意味で。 「にしてもおめえ……」  オヤジが感慨深げに呟く。 「お嬢さんをキャン玉袋で包むたあ……恐れ入ったわ」  おかげで俺の袋はまだ凍傷でヒリヒリしてる。でも凍りつくような山風から餡を守る方法はそれしか思いつかなかった。 「まあオレら狸の袋はヘタな毛皮より厚くて丈夫だし、引っ張りゃおめえのだって一畳くらいにゃなる。ちっちぇえ餡お嬢さんなんかすっぽりだわな。だっはははは!」  デリカシーのない笑い声が股間の凍傷に響く。  基本的に俺たちは普段こうして人の姿で人間として社会生活を送っている。  かつては妖力を競った時代もあったらしいが、現代を生きる俺たちは人に変化する程度の力しか持ち合わせていない。別に必要もないし。 「……もう少し眠れや。ヒーロー」 「うん……」  心地好い眠気が再びやって来た時、事態は一変した。  
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