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 喫茶店では有名な映画音楽がボサノバ風にアレンジされたものが流れていた。僕は案内された席につきメニューを開いた。飲み物と食べ物が区分けされ、行儀良く並ぶ中から僕は気紛れにミルクティとサンドイッチを注文する。  小さなグラスに水が注がれ、席は完全に僕一人のものになった。窓がある窪みには観葉植物が飾られ、緑の葉が膨らみ緩やかな曲線を描いていた。その奥から照らす光がテーブルの上のグラスを通り、テーブルの天板に水族館のようなゆらめく影を作り出していた。僕の気分はとても晴れやかだった。  紙袋を取り出し、口を開けると文具店の匂いが溢れ出した。ノートを包む袋を破り、紙袋の中に乱暴に放り込んだ。ペンは必要以上に丈夫な箱に梱包されていた。僕はそれを丁寧に取り出し、ぼんやりと眺めた。金の装飾が陽の光を反射している。僕はノートを開きペンをノックして書き始めた。特に何も決まっていないまま僕は思いつく限りの文字を脳からノートに写し出し、気が付くと一ページはすぐに埋まっていた。  途中でサンドイッチとミルクティを持ってきた店員は何やら怪訝な表情をしていたが、僕はさして気にせず書き続けた。それから四ページほど書いたあたりで僕はようやく満足し、サンドイッチを平らげ、すっかり冷めたミルクティを一気に飲み干した。  胃の奥からせり上げるような甘い香りが返ってきて僕は自身の肉体を実感した。ひとつひとつ音を鳴らしながら慎重に調子を整える音楽家のような気持ちだった。僕はまた紙袋にペンとノートを戻し、席を立った。
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