捕虜と救出

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 ブラントは、肌を這う激痛に目を覚ました。見下ろした途端に、悔しさが込み上げてくる。  ブラントは服をほとんど剥ぎ取られ、下着のみのまま支柱に縛られていた。荒い縄はぎりぎりと白い肌に食い込み、幾筋かの血を滲ませている。  ここは地下だろうか。誰かの足音がやけに反響している。気温も低く、肌寒い。  暗がりの中にぼんやりとカンテラの光が見えた。人影の数からするに、ヴィラルバージョも構成員は随分と減ったらしい。ここまでに連中を斃してきたかいはあった、と密かにほっとした。  とは言え、危機は去っていない。それどころか、いちばん重要な問題がまだ残っている。 「よお、目が覚めたか。ブラントちゃん」  いきなり視界が明るくなった。上裸の男が、さも暑そうにしながらカンテラをこちらに向けている。漂う汗の臭いと口臭から顔を背けようとしたが、毛むくじゃらの手がブラントの顎をがっしりと掴んだ。 「・・・・・・黙れ、肥え太った豚め」  辛うじて話すことだけはできる。ブラントは上目遣いに男を強く睨みつけながら、その顔に唾を吐いた。  鼻筋に強い衝撃と激痛が走り、頭が勢いよく左側の壁に叩きつけられた。顔を殴られたとわかったが、どうすることもできない。視界に星が舞い、目がくらんだ。  ようやく重い頭を正面に向けると、男は額に青筋を浮かべて拳を鳴らしていた。呼吸が荒い。あまり怒らせてはまずかったか、と後悔したが、既に遅かった。 「こいつ、よくも──!」  罵声と拳は同時だった。顔と構わず、幾度も殴られた。きつく縛られているはずだというのに、全身が左右へと交互に激しく揺さぶられる。  腹に拳を受け続け、ブラントは吐き気が込み上げてくるのを感じていた。  永遠にも思える時間はやっと終わった。今度こそ、下を向いたまま正面が見れない。  吐瀉物と血を口の端からぼたぼたとこぼしながら、ブラントは俯いていた。  重力に逆らって顔をあげるほどの力さえも、出したくはなかった──反撃するために。
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