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 煌々としたネオンの光を背中で受け止めながら、駅へと向かっていた。  一ヶ月前には、街道に満開の桜を咲かせていたのに、今はすっかり枯れ果てている。  明日は月曜……またの気持ち悪いノロケ話を聞かされるんだろう。気分悪い。  せっかく同僚との飲み会で火照らせた心が、急速冷凍されていく。  アスファルトに吐き出された見えない息を目で追いかけた。三年前に買った淀んだ革靴が見えた。そろそろ買い替えないとな。  その靴先に、底が潰れたヤカンが、ガタガタと高音を打ち鳴らしながらじゃれついてきた。  こんなところにヤカン……どこから転がってきた? 周りを見回したが、人っ子一人いない路地に手がかりは落ちていない。  控えめに蹴飛ばしてみた。荒井さん(あいつ)の顔に見立てて。不格好なそれは派手な音を立てながら前を進む。思ったより遠くまで転がった。  十五メートルほど先で止まった。また蹴飛ばしてくださいご主人様とでも言いたげな様子で。
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