やってくる

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やってくる

 静かな森の中にある澄んだ水の池。  澄んでいる池にはあまり生物はいないと聞いたことがある。  エサになる水草や、そこに生息するプランクトンなどがいない為だ。  でも、マコがこの澄んだ池の傍に座っていると必ずやってくる。  水色の池の精が。 『また会えたね』  水色の池の精はいつもマコに声をかけてくれる マコも小さな声で答える。 「また会えたね。」  マコはいつも一人ぼっちで池に遊びに来る。  大人が話していた。マコのお父さんはマコがお母さんのおなかの中にいるときに、人を殺したんだって。  だからマコが生まれた時から誰も遊んでくれない  お母さんはマコが居なくても気づかない位忙しい。いつもいつも働いているから。  だからマコはいつも入ってはいけない森の池の傍にいる。誰にも叱られないし、意地悪を言う人もいない。  それに、此処にいると池の精が遊びに来る。 『また会えたね』  澄んだ声で、声なのかはわからない様なかすかな声で、必ずそう声をかけてくれる。  今日は池の精は小さい池の精も連れて来た。  小さな池の精は、水色の池の精よりももっと薄い水色だ。 『こんにちは。はじめまして』  小さい池の精はいった。  マコも 「こんにちは。」  と答えた。  小さい池の精は、いつもの池の精とは違って池の傍まで来てマコと遊んでくれた。  澄んだ池の水を跳ねさせて美しい模様を作って見せたり、池の水に溶け込んだかと思うと、マコの後ろから出て来たり。  マコはすっかり、小さな池の精が気に行ってしまった。 「ねぇ、また会える?」 『ううん』 「どうして?」 『今日は特別だから』 『池の中ならまた会えるよ』  池の精が帰ってしまってからマコはしばらく考え込んだ。  その日家に帰ると珍しくお母さんが帰っていて、びしょ濡れのマコを見て 「また森の池に行ったの?危ないからいけないって言っているのに。」  マコは叱られてしまった。  次の日、またマコは森の中の澄んだ池の傍に行った。  今日はいつもの大きな池の精も出てきてくれない。 『また会えたね』  あの小さな池の精ともう一度そういって言葉を交わしたいとマコは思った。  池の中なら会えると言っていた。  マコはそっと池の傍から池の中へ入った。  水も冷たく感じないし、そのままそっと池の真ん中まで歩いて行った。  はっと気が付くとマコは池の中にいた。  あの小さい池の精が池の中にいた。 『また会えたね』 「うん。また会えたね」  マコは幸せな気持ちになって小さな池の精とたくさんの時間遊んだ。  家ではいつまでも帰らないマコを心配したお母さんが待っていた。  思い立って、森の中の澄んだ池を見に来たとき、見つけたのは池に浮かんでいた、小さなマコの背中だった。  引き上げられたマコは生きている時には見せたことの無い満面の笑みを浮かべていた。  誰も遊びに行かない澄んだ池の精は唯一の友達であるマコを手放したくなかったのだろうか。  それとも、マコが地上よりも池の中を選んだのだろうか。 【了】
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