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 季節は、めぐりめぐる、春。  僕は、何度も君の夢を見る。 『大丈夫よ、何度生まれ変わってもまた会えるから』   *  出会った瞬間に、君だと気づいた。  君の名前は春の花。  花開くようにふわりと微笑む君。  満開の桜を見上げて、涙を流していた君。   *    君に出会う前の僕は恋なんて他人(ひと)事なんだろうと思っていた。  僕は北関東の海の無い県。山々に囲まれた静かな町に生まれ育った。  幼少期からどこか冷めているというのか大人びた子供だった。  まるで周りの『子供』に合わせるかのように振る舞う。この体に違和感があるかのように。  周りがやけに幼く見え、いつも馴染めずにいた。  西村(アオイ)。  僕には遠い遠い昔の『記憶』があった。  それは、自分自身ではあるけれど現在の自分では無い。他の子には無いものだと徐々に気づいてはいたが、僕にとっては当たり前で自然な事だった。  記憶の話を母親にした時には『夢でも見たのね』と言われ、それ以来は話さなくなった。  奇妙なものを見る目、話してはいけないものなんだと子供心にも敏感に感じ取っていた。  少しだけ孤独な日々。  でもその孤独の逃げ道として、僕は気づいたら『記憶』をノートに書き記すようになっていた。最初は絵に描き記し、徐々に文字が増えて行った。
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