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「私は噂を信じてはいません。ですが、そういう噂があり、信じている人間が一定数いるのは事実です」
「噂の出所はわかりますか?」
「……憶測でしか――」
「――構いません」
「鹿子木さんの可能性があります」
鹿子木――!?
「彼女は本気で東雲専務か俵室長との縁を望んでいたようですから」
「私――ですか?」
入社時は色目を使ってきたことがあったが、一切寄せ付けずにいたら諦めたようだった。
それからは、皇丞に狙いを絞っていた。
「室長のご実家について、知っていたようです」
勤務中であることも忘れて、思わずはぁと盛大なため息をついてしまった。
「希望していた東雲専務の秘書となり、俵室長に一目置かれる如月さんのことを、かなり嫌っていました。秘書室内で彼女の陰口を言っているのを聞いた時に叱責したのですが、効果はなかったようです。申し訳ありませんでした」
又市さんが深々と頭を下げた。
「又市さんにはなんの責任もありません。それよりも、噂の出所が鹿子木さんだと思った根拠はなんですか?」
「今朝、女性社員が話していたのを聞いたんです。鹿子木さんからの写真付きのメールを見たか、東雲専務ともそういう関係なのか、といった内容でした。すぐには何のことかわからなかったのですが、室長と如月さんの噂が同時に広まって、繋がりました」
なるほど。
俺は腕時計に視線を落とした。
「噂について、内容や出所について調べてみます」
「お願いします」
「はい。行ってらっしゃいませ」
一礼する彼女に背を向け、俺は足早に部屋を出た。
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