1.嫌いな女

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1.嫌いな女

 賢い女は嫌いだ。  社長夫妻をはじめ、曲者揃いの職場から離れてまで、頭を使いたくない。  だから、何も考えずに程よい快楽を与え、与えられ、程よい疲れに身体を休めたい。  そうさせてくれる女が、いい。  そうさせてくれる女が、良かった。  はず、なのに……。  最近はどうも、仕事終わりに女と会う気になれない。  最近は特に、色々あったからな……。  だったら、早く帰って酒でも飲んで寝たらいい。  そう思うのに、なぜか身体は彼女へと向かう。  髪を切っても後ろ姿だけでわかってしまう。  優秀な秘書であるが故、だ。  決して、他意はない。 「(あずさ)ちゃん」 「(たわら)さん。お疲れ様です」  髪を切り、前髪も作った彼女は、少し幼く見えるようになった。 「お疲れ様。皇丞(おうすけ)はまだ、執務室だよ?」 「いいんです。今日は先に帰ってようかと」 「そう?」  彼女の手の中のスマホが見えた。  店のものとは思えない料理の写真が並んでいる。 「今日のメニュー?」  彼女がスマホを見て、笑う。 「レパートリー少なすぎて」 「皇丞なら、お好み焼きとオムライスのローテでも文句言わないんじゃない?」 「そうなんですけど、さすがに私が飽きます」  友人で上司でもある皇丞は、彼女の夫。 「梓ちゃんのお好み焼き、食べたいな」  通用しないとわかっていても、つい他の女に向けるような笑みで見てしまう。  そして、彼女にそんなつもりはないとわかっていても、笑みを返されたらハッとしてしまう。 「じゃあ、今度お好み焼きを作る時は誘いますね」  聞かなくてもわかる。  誘われる時は、皇丞が仏頂面で渋々OKした時だ。  で、きっと欣吾も一緒に誘われるんだろうな。  それなら行きたくない、と思わないから不思議だ。
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