7.噂

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 差しっ放しのUSBを抜き取り、パソコンを閉じる。  USBはジャケットのポケットに入れ、足元の鞄をチェックすると、持って出た。  又市さんが後に続く。  俺は何も言わなかった。彼女も。  そして、社長室手前の応接室に入った。  又市さんがドアを閉めると同時に振り返る。  が、彼女が俺とすれ違うように部屋の中に進み、俺は身体の向きを戻した。 「又市さん、急かして申し訳ないが――」  又市さんがくるりと振り返ると、真剣な表情で言った。 「――如月さんが以前仕えていた役員と不倫関係にあった、という噂が流れています」  不倫――? 「今は、東雲専務の愛人ではないか、とも」  驚いたとか、ショックを受けたとか、そういう感情じゃない。  誰のことを言っている? と聞きたくなるほど、真実味のない話。  噂とは往々にしてそんなものだが、それにしても突拍子もないというか、面白いほど真実味がない。  あの、りとだぞ……?  器用そうに見えて不器用で、頑固で、驚くほど男慣れしていない。そんな彼女が不倫をしていたなんて、信じられないというよりもあり得ない。  その上、皇丞の愛人だなんて地球上に皇丞とりとしかいなくなっても、あり得ない。  梓ちゃんがいない時点で、皇丞は廃人同然だろう。  それに――。 「如月さんは東雲専務がお連れになった方です。当然、職歴も調べています」  これについては、確認した。  りとが提出した履歴書の内容が事実か、退職時にトラブルがなかったか、など。  だが、そうしなくても、りとの経歴に傷がないことはわかっていた。 「わかっています」  又市さんは当然のように、俺の言葉に頷いた。
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