17435人が本棚に入れています
本棚に追加
/425ページ
差しっ放しのUSBを抜き取り、パソコンを閉じる。
USBはジャケットのポケットに入れ、足元の鞄をチェックすると、持って出た。
又市さんが後に続く。
俺は何も言わなかった。彼女も。
そして、社長室手前の応接室に入った。
又市さんがドアを閉めると同時に振り返る。
が、彼女が俺とすれ違うように部屋の中に進み、俺は身体の向きを戻した。
「又市さん、急かして申し訳ないが――」
又市さんがくるりと振り返ると、真剣な表情で言った。
「――如月さんが以前仕えていた役員と不倫関係にあった、という噂が流れています」
不倫――?
「今は、東雲専務の愛人ではないか、とも」
驚いたとか、ショックを受けたとか、そういう感情じゃない。
誰のことを言っている? と聞きたくなるほど、真実味のない話。
噂とは往々にしてそんなものだが、それにしても突拍子もないというか、面白いほど真実味がない。
あの、りとだぞ……?
器用そうに見えて不器用で、頑固で、驚くほど男慣れしていない。そんな彼女が不倫をしていたなんて、信じられないというよりもあり得ない。
その上、皇丞の愛人だなんて地球上に皇丞とりとしかいなくなっても、あり得ない。
梓ちゃんがいない時点で、皇丞は廃人同然だろう。
それに――。
「如月さんは東雲専務がお連れになった方です。当然、職歴も調べています」
これについては、確認した。
りとが提出した履歴書の内容が事実か、退職時にトラブルがなかったか、など。
だが、そうしなくても、りとの経歴に傷がないことはわかっていた。
「わかっています」
又市さんは当然のように、俺の言葉に頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!