7.噂

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***** 「今日、如月さんと出かけたんだけどさ――」  視線を上げた弾みで、指先を冷やすグラスの中の氷が傾く。 「――彼女、運転も上手くて。あ、彼女が運転する車に乗ったことあるか?」  聞かずともわかっているだろうことを得意気に聞く友人に、苛立つ。 「俺が運転するって言ったんだけど、秘書の役目だからって言ってさ? ホント、秘書の鏡だよな」  カウンターに肘をついて、わざわざ俺の方に身体を向け、頬杖を突く皇丞を睨みつけたいが、そうはしなかった。 「そんなことを言うために呼び出したのか」  ウイスキーを口に含む。 「上司として、部下の仕事ぶりは気になるだろ? 上司として」  上司として、ね……。  二度も言われたら、さすがにムッとする。  そのせいで、グラスを置く手に力が入ってしまった。 「仕事の話なら勤務中になさるべきでは? 専務」  俺はネクタイを勢いよく引き抜き、畳んでポケットに入れた。  ワイシャツの一番上のボタンも外す。  皇丞から、話があるから残業するなとメッセージが届いたのは、外出する奴とりとにエレベーター前で会った数分後。 「さっさと用件を話せ。梓ちゃんが待ってんだろ」  グラスと一緒に出されたアーモンドをバリバリ噛んでウイスキーを流し込む。  早く帰りたい。  腕時計をチラリと見ると、十九時ちょうどだった。  力登はもう晩ご飯を食べただろうか。  さすがに寝てはいないだろうから、今から行けば起きているうちに帰れるだろう。  りとが噂を知っているか、知っていたらどう思ったか、聞きたい。  皇丞はノンアルコールのビールを一口飲み、俺同様にネクタイを外した。 「如月さんはまだ知らないみたいだぞ」 「何を」 「社内での噂」 「……っ!」
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