17397人が本棚に入れています
本棚に追加
/425ページ
*****
「今日、如月さんと出かけたんだけどさ――」
視線を上げた弾みで、指先を冷やすグラスの中の氷が傾く。
「――彼女、運転も上手くて。あ、彼女が運転する車に乗ったことあるか?」
聞かずともわかっているだろうことを得意気に聞く友人に、苛立つ。
「俺が運転するって言ったんだけど、秘書の役目だからって言ってさ? ホント、秘書の鏡だよな」
カウンターに肘をついて、わざわざ俺の方に身体を向け、頬杖を突く皇丞を睨みつけたいが、そうはしなかった。
「そんなことを言うために呼び出したのか」
ウイスキーを口に含む。
「上司として、部下の仕事ぶりは気になるだろ? 上司として」
上司として、ね……。
二度も言われたら、さすがにムッとする。
そのせいで、グラスを置く手に力が入ってしまった。
「仕事の話なら勤務中になさるべきでは? 専務」
俺はネクタイを勢いよく引き抜き、畳んでポケットに入れた。
ワイシャツの一番上のボタンも外す。
皇丞から、話があるから残業するなとメッセージが届いたのは、外出する奴とりとにエレベーター前で会った数分後。
「さっさと用件を話せ。梓ちゃんが待ってんだろ」
グラスと一緒に出されたアーモンドをバリバリ噛んでウイスキーを流し込む。
早く帰りたい。
腕時計をチラリと見ると、十九時ちょうどだった。
力登はもう晩ご飯を食べただろうか。
さすがに寝てはいないだろうから、今から行けば起きているうちに帰れるだろう。
りとが噂を知っているか、知っていたらどう思ったか、聞きたい。
皇丞はノンアルコールのビールを一口飲み、俺同様にネクタイを外した。
「如月さんはまだ知らないみたいだぞ」
「何を」
「社内での噂」
「……っ!」
最初のコメントを投稿しよう!