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夏の猛暑が終わり、涼しい風が二人の間を通り抜けた。金木犀だろうか、どこからともなく漂う香りは季節の移ろいを感じさせる。
「今日はありがと。舞香。俺、緊張してたから手汗がハンパないんやけど……」
デートの帰り道、並んで向かい合った二人の影が夕空に照らされて伸びている。圭太は、サコッシュへと右手を入れてガサガサと漁り出して、可愛らしい真四角の箱を取り出した。そして至極真面目な顔をしてこう言った。
「ちょい恥ずかしんやけど」
「ん? なに?」
どうしたんだろうか?
舞香の目が見開かれる。
「……付き合って欲しい」
差し出されたディープブルーの箱にはふんわりとリボンが。
「えっ、ほんまに?」
驚いて声が裏返った。
「うん。俺、舞香の事、好きやねん。守りたいねん」
圭太は目を忙しなく動かしている。舞香は、一瞬、動きを止めてから箱を受け取る。そして愛おしそうに見つめて、頷いた。
「うん。私も圭太の事が好きやで」
長い髪の毛がふわりと風にのる。
恥ずかしそうに見つめあう恋人は、心嬉しそうに笑う。通り過ぎる人々が振り返る。誰から見てもその光景は幸福に満ち溢れたものだった。
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