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~sideラシル~
ロイドがエルフの姿だった理由と、ノアに惹かれて俺よりもノアを優先した理由も、全部納得する事ができた。これはおそらく、エルフに限った事ではなく、イースト国であっさりと狩られたところ見ると、竜人もそうなのだろうと分かる。ツガイのいない世界樹には、ほとんど価値がないと言ってもいい。実際、世界樹は今まで何もしなくとも、生物は自由に世界や国を作り、自由に増えて進化した。
世界樹は、ただそこに在るだけで、過去を記録し、世界を保つだけだが、ツガイであるノアは違う。俺は早くツガイを捜せと、言われていたようなものだったのだろう。そして、ツガイを持つ俺や世界樹は、そこで漸く価値が跳ね上がる。今まで記録をするだけだった過去は、未来を変える為の材料になり、俺の感情によってノアが世界をどんどん変えていくのだろう。そうなれば、世界を壊されない為に、生物達は俺や世界樹を意識し、世界を良くしようとする。それが繁栄だ。
俺にはやっぱりノアしかいないんだ。知能が特別高いとは言えなくても、ノアは自分の為に望んだ。その結果、ノアは俺の為になる事を望んで、それによって自分は喜びを得た。そんなの、普通ならなかなかしない。ノアだから望んだ事だ。
「ノア、くすぐったいよ。嬉しいの?」
「キュン! キュキュン!(うん! 獲物いっぱい!)」
「良かったね。ノア、エルフはノアの好きにしていいよ。俺とギメルに共有する必要もない」
「キュ、キュンキュンキュン!(じゃあ、ロイドとノク兄さんにあげる!)」
共有じゃなくてあげるんだ。珍しい……なんであげようと思ったんだろう。
「ノア様、いいんですか?」
ロイドは驚いた様子で、ノアに確認する。それに対して、ノアは意外な事を口にした。
「キュンキュン(アス兄さんが嫌がってる)」
「アスト様が……あぁ、確かにそうかもしれませんね。ノア様にとって、アスト様は特別ですし、過去は後悔しても変える事ができません」
すると、次はアストが驚く番で、ノアが喋りだすと、珍しくキツネの姿のまま多くを喋るため、内容がなんとなくしか分からないアストは、俺に通訳を頼んできた。
「ノアは、アストがエルフを嫌がってると思ってる。ノアには隠しきれないんだろうね。ノアはアストが嫌がるなら、エルフをそばに置いてアストが離れるより、アストにそばにいてほしいって言ってるよ。それに、精霊も離れてるって言ってるね。ノアにとって獲物の序列的には、エルフはイースト国で狩ったウェン以外の竜人と同じか、それより下ってところかな」
説明すれば、アストもエルフも納得した様子で、アストは「罰か」と静かに呟いた。
「ノア様がエルフとも仲良くなれる日がくるよう、私が王としてエルフを導きます」
「キュキュン、キュン!(ロイドが王様、安心!)」
その後、ロイドがエルフ達を連れて帰ると、次はルカがシノも連れて帰ってきて、アストがシノに説明をすれば、どうやらフォキシナの街にも天使が堕ちてきたらしい。今はジョナンが、保護という名の監視をしていると言う。
「キュン、キュウ?(母さん、怒ってる?)」
「ん? 怒ってない……あぁ、褒めてなかったな。ノアはよくやったよ。精霊王と世界樹を守ったんだ。凄いじゃないか」
ノアは耳と尻尾を下げてシノの元へ行くが、シノがノアを抱えて褒めれば、その耳と尻尾はすぐに元気を取り戻し、ノアは「キュッキュ」と嬉しそうに鳴く。
ノアは、やっぱりシノが怖いんだね。怒ると怖いって前から言ってたし、そこはアレフよりもやっぱり母親って感じかな。
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