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広大な緑が広がる平原。
そよそよと優しく吹く風。
そこにある道をとぼとぼと歩く女性がいた。
さらさらの金髪のハーフアップに、色白の肌をしている小さな顔。
アメジストのような色の綺麗な瞳に、それと同じ色の服を着ている。
「はぁ…………」
端から見れば、どこぞの貴族の令嬢と勘違いされてもおかしくない麗しい見た目で、
一つ一つの仕草が絵になる。ため息すら。
が、実はこの女性───────
元魔王専属秘書なのである。
◇◇◇◇◇◇
遡ること10日前。
魔王専属秘書、ラナゲイル・アローナはラリエット王国の中心地にある魔王城の窓から、近くの町を見つめていた。
「………………」
見えるのは楽しそうにはしゃいでいる子供達。これから魔物を倒しにいくのか、張り切った様子で武器を握るパーティーの人達。
だが、あの町は今、自分達魔王軍の支配下にある。あんなに楽しそうな笑みを浮かべていても、何かと制限される生活を送っているのだ。
「ラナゲイル」
無表情で町を見つめていると、後ろから低い声をかけられた。
「……………魔王様」
そこにいたのは、正真正銘ここ、ラリエット王国を全て支配しようとしている張本人………魔王ゲルテが立っていた。
「どうか……なさいましたか?」
「明日、まだ支配していないマルクスシティを制圧する。準備をしておくように。」
ゲルテはそれだけ言って魔王の座椅子がある自室へと戻っていった。
ラナゲイルはうつむきながら弱々しく返事をする。
「はい………………」
だが、その態度とは裏腹に心の中は燃えるように熱くなっていた。
先ほどの支配がどうたらこうたらという話など一切耳を向けていない。
私だって………!!普通の生活がしたい!!!
ラナゲイルはそう心の中で強く願った。
魔王城の者がこのようなことを聞いたらさぞ、驚くであろう。
当たり前だ。ラナゲイルは今までずっと魔王専属秘書として仕えてきたのだから。
魔王城での生活はとても至れり尽くせりだったけど……………もうやだ!
町の支配?誰がやるか!
魔王の突拍子な提案に付き合うのも、理由なく人を殺めるのも、もううんざり。
こんな城………抜け出してやる!
どうやらラナゲイルは、ここ最近ずっと町を見ていたらしい。
そうしたら普通の生活が羨ましくなり、とうとう感情が爆発してしまったようだ。
そしてその一時間後、自分の怒りのままに魔王城をひっそりと抜け出したのであった。
◇◇◇◇◇
そして今に至る。
抜け出してからはや10日。
きっと魔王は自分がいないことに気付き、魔王城総出で探しているのだろう。
だとしたら、この国に残っているのはリスクが高い。早急に別の国へ移動しなければ。
だが、体に限界は勿論ある。
ぐるるるるるぅ~…………
「お、お腹が、すいた………」
魔王城の食料庫からある程度は食べ物を盗み出してきたが、何せ一日三食、ついでに間食もはさむ食生活を送ってきたのだから、我慢するのはなかなか難しいことであった。
きちんと食べる量を考えていれば3週間くらいははもったはずだが、8日目で食料が尽きてしまった。
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