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英雄様への依頼①
カラン、と高い音をだして揺れるドアベル
私が国で一番大きい酒場組合の扉を開けて中に入ると、店にいる全員がこちらを振り返る
「英雄様だ!」
「舞桜様だ!」
「凰様よ!」
次の瞬間、店内が沸く
私は愛想笑いを浮かべながらいつもの席、カウンター席の1番左側の席に座る
すると、カウンターの中に立っている金髪碧眼のイケメンがふわりと笑みを浮かべてカウンター越しに歩み寄ってくる
「いらっしゃいませ、舞桜様。今日は如何様で?」
黒い細身のスーツがよく似合う彼は、この組合のマスターだ
要は、この組合で一番偉いギルド長というわけだ
名前はアレクサンドラ・ド・ツィリー
「サーシャ………報酬の受け取りと新しい依頼の受け付けに来ただけよ。ついでにサーシャ特製のレモネードをいただける?」
私はアレクサンドラのことを“サーシャ”と愛称呼びしている
それほどに、仲が良い
「わかりました。………それにしても、組合のマスターのことを愛称呼びするのもできるのも貴女だけですね」
サーシャはレモンサワーを作り始めながら私に話しかける
「友人はサーシャひとりだけだもの。仕方がないわ」
「仕方がない、って………」
サーシャは苦笑して私に向きなおる
「貴女が誰とも関わろうとしないからですよ。話しかけてくれる人はたくさんいるでしょう? 英雄なんですから………」
「だって、話しかけてくる人はみんな私を私として見ているのではなく、“英雄”として見ているじゃない。他人に自分の性格を決めつけてほしくないの。私を私として見てくれるのだけはサーシャだけ」
「そういう陰キャみたいなこと言ってるから俺以外の友達ができないんですよ」
「………失礼ね。ひとりだけでも私のことをわかってくれる人がいるならそれで充分よ。サーシャだとなおさらね」
話してる間にもレモンサワーはできていく
「はい、いつものレモンサワーですよ」
「ありがとう」
渡されたレモンサワーを受け取ると、口元へと運ぶ
「うん、美味しい」
そう言って微笑むとサーシャは顔をほんのりと赤くしながら「それは良かったです」と言った
「ところでサーシャ、なにかお手頃の依頼はある?」
サーシャは私の切り替えの早さに苦笑しつつも、店の奥から数枚の紙を持ってきた
依頼書である
「まず大前提として、舞桜様にこなせない依頼・任務などありませんよ」
そう言ってから私の前に依頼書を置く
《一角獣の皮を5㎏と人面鳥の嘴みっつの回収 報酬はアルトソード 謎の職人》
《リデル街に現れた辻斬りの正体の確認と討伐 報酬は30万G リデル街町長》
《カミラの人里を魔物から守る 泊まるときの費用は全額負担いたします 報酬は恵みの宝珠 カミラの長》
「……自分の身くらい自分で守りなさい。そして自分で使う材料くらい自分で集めなさい」
「それができないから依頼してるんでしょう? もっと考えてください。………で、どれにするんですか?」
私は一拍おいてから1つの紙をつまんだ
「これをやるわ」
私がつまんだのはカミラの長からの依頼書だった
「恵みの宝珠なんて聞いたことないわ。それに、一角獣を狩っても人面鳥を狩っても辻斬りを狩っても楽しくないもの。なにがあるかわからない。何が出てくるかわからない。それが、冒険とバトルの楽しいところよ」
そう言うと、サーシャは溜息を付きながらも依頼書に《受領者:凰舞桜》とペンを走らせて掲示板に貼った
何故かは分からないが、いつも掲示板に貼っている
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