ハンカチから始まる物語

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 それはうだるような暑さの夏、蝉が鳴き響き、公園のベンチにて僕は額から汗を拭きながら読書に勤しむのである。  蝉の鳴き声、公園沿いの道路を行き交う車の音。そして僕の名前は山河健(やまかわたける)。年齢は15歳の中学3年の男性だ。 「やっぱり、公園に来たら静かに読書に限るなぁ………」  好きな本はヒューマンドラマ。夏の田舎町を舞台とし、そこで実施される1ヶ月期間セミナーにて、社会復帰の為に引きこもりの少年が様々な人達と悩みを打ち明け合い、成長していく物語だ。パラパラと開いていくページ。登場する人達の個性、過去、時々笑える場面があるから面白い。 「おい」  何か声が聞こえた。多分、誰かの世間話だから俺ではない。俺は無視して読書に勤しむ。 「おい、そこの読書に勤しむ孤独な少年よ。この僕が話しかけているのだよ、振り向くがよい」  話しかけているのは俺みたい。面倒くさいな。と、思いつつ、顔を見上げる。そこにいたのは10歳の子供。黒髪ショート、袖無しの白シャツ、短パン。  アレだ、よくいるわんぱくな子供である。 「何だ君は?」  俺は少しイラッとした様子で尋ねる。 「お前のような孤独な者に、親切に手を差しのべる心優しいきゅーせいしゅだっ。公園にいるなら遊ぶのが一番だっ」  わんぱくな子供は指をビシッと差す。 「別に公園でどうしようが、自分の勝手だろ?」 「なら、僕も公園でどうしようが勝手だ。なら、僕と遊べ。孤独な少年よっ」  わんぱくな子供は、サッカーボールを差し出す。  まったく、このガキは滅茶苦茶な奴だ………。と、俺は立ち上がり相手をすることにする。 「アハハハ、お兄ちゃん。サッカー下手クソだね」  わんぱく子供はケラケラと笑う。サッカーボールを軽く蹴ってパス、一方の健(たける)はパスされたボールを受け止めようとしたが、躓いてコケる。  健(たける)は立ち上がり。 「やかましい、コッチは運動が苦手なんだよ。次は俺だっ」  サッカーボールを軽く蹴ってパス。  コロコロと、地面を擦ってサッカーボールはわんぱく子供に向かう。 「やるね?孤独な少年の割には良い球筋よっ」  わんぱく子供は受け止め、再び蹴ってパス。 「孤独は余計だ。俺は友人には興味がない………」  健(たける)は少しイラッとしながらもサッカーボールを受け、蹴ってパス。 「おっと………」  サッカーボールは、わんぱく子供の足先をすり抜け、後ろに転がる。 「すまない」  健(たける)は一言。 「この僕に、エラーを誘うとは」  わんぱく子供は後ろに転がるサッカーボールを取りに行く。場所は公園の外の道路。 「よっと………」  道路上、わんぱく子供はサッカーボールに手を差しのべる。  その刹那、まるで死角を突くように………。サッカーボールに手を差しのべるわんぱく子供の右側からは50キロで走行する自動車が迫る。 「えっ?」  ……………気がつけば、わんぱく子供は後ろに引っ張られ、転倒した。同時に自動車は無慈悲に通過した。 「大丈夫かっ!!」  健(たける)は言った。サッカーボールを取ろうとした時にカンが働き、咄嗟に走って後ろからわんぱく子供を抱きつくように鷲掴みにし、仰向けになる。うっすらとわんぱく子供は瞳を開く。  健(たける)の両手が胸をしっかりと掴んでいた。 「はあっ!!………」  わんぱく子供はビックリして振りほどいて立ち上がり、胸を恥ずかしい様子で隠し、後ろ姿で沈黙する。 「大丈夫かい?」 「……………ありがと」  健(たける)の問いに、わんぱく子供は表情を赤くしながらサッカーボールを持って猛ダッシュで走り去る。   「何だよ………」  健(たける)はタメ息を吐きつつも、見送る。  しかし、地面にはあるもの。走り去る時、落としたハンカチ。中西茜(なかにしあかね)と刺繍されている。 「女の子みたいな名前だな………」  健(たける)はハンカチを拾う。  それから、何日も公園に足を運んだが、あの子供は姿を見せなかった。名前を刺繍されたハンカチを持ち、返す為に。    5年後………。  俺は20歳になり、大学生となっていた。季節はあの頃と同じ、セミの鳴き声が響き渡る夏。俺は休日の公園のベンチにて横に缶コーヒを嗜みつつ読書に勤しむ。ハンカチを見たら、思い出す。 「おい、そこの孤独な青年よっ」  そうそうこの声。え?………。  健(たける)は顔を見上げる。 「また会えたね?………お兄ちゃん」  そこにいたのは黒髪ロング、袖なしのセーラー服を着た女性だった。年齢は15歳。そして女性の憧れ、象徴とも言える大きな乳房。  健(たける)は5年前の出来事を思い出す。そしてハンカチを見て、彼女の名前を言う。 「君は、あの時の?その、中西茜(なかにしあかね)さん?」  俺はハンカチを取り出して彼女に差し出す。  彼女、中西茜(なかにしあかね)はハンカチに手を伸ばす。  健(たける)は彼女の大きな胸を見て頬を赤くして言う。  「………女の子だったんだね?。その、キレイになったね?」  そう、あの頃はただの馴れ馴れしい少年だと思っていた。本を読んでいる時に馴れ馴れく絡み、少し強引にサッカーをやらされた。しかし公園の外までボールが転がり、車に轢かれそうな時に自分が後ろから羽交い締めの体勢で抱きつき、胸を掴んでいた。  胸を後ろから掴まれた事を思い出し、差しのべる手を引っ込め、中西茜(なかにしあかね)は視線を反らし、恥ずかしい様子で言う。 「その、ハンカチはあげる。それで、孤独なアナタに私の連絡先を教えてあげるわっ」 「よろしく、俺は山河健(やまかわたける)」  俺はにっこりとスマホを取り出し、一方の中西茜(なかにしあかね)もスマホを取り出して連絡先を交換した。
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