群青ジレンマ3

70/80
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
 この後俺も練習があった。スタジオに着くと扉越しにみんなの笑い声が聞こえた。乾かしてきた涙が、再び溢れそうになる。 それを必死に我慢して、何食わぬ顔で中へ入る。  「お、波瑠〜!おつかれ〜」    那月ちゃんが手を上げて俺を迎えてくれた。ついでに俺が好きな飲み物までくれた。    「何?微妙に優しいのがちょっと怖いんだけど〜」  「失礼な。私はいつも優しいですーっ!」  「波瑠!十分遅刻だぞ」  「ごめんちゃい」  ギターを置き、息を吐きながら座った後、俺は報告した。  「たった今、失恋してきました」  それを聞いて、孝則君と綿谷は「どんまい」と言った。  どんまい⁉︎どんまいって、この人たち酷くないか?俺、目腫れてるし絶対なんでかわかるよな?もっと他にかける言葉あるだろ。クソ野郎ども。  けどなんか、おかげで悲しい気持ちも薄れてきたわ。  「波瑠、練習終わったら、今日俺ん家集合な」  ドラムを叩きながら、孝則君が俺を見る。  「えー、俺今日めっちゃ疲れてるんだけどっ」  「駄目だ」  「はい?」  「みんなで鍋するぞ」  「鍋賛成!」  「鍋かー。熱くない?」  文句ばかり垂れるオレを一瞥し、孝則君は立ち上がってこちらへ歩いて来る。そして俺の頭を嫌がらせみたいにガシガシ撫でた。  「今日はしてやる。膝枕」  「い、いらねーし!」  悔しいけど、ちょっとだけ涙出た。リトルノイズの一員でほんとによかった。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!