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「嫌だったらい……」
言い切るまえに、凪が俺の胸に飛び込んできた。
ふわりと香る彼女の匂い。頬に触れる髪。
初めて背中に回される腕の感触。近い吐息。
凪。大好きだ。
俺の想い、全てを注ぐように、大事に、大事に抱きしめた。
「ツアー、頑張ってね」
「うん。波瑠も…色々、がんばって」
「俺、でっかくなるよ。心も。体も。体はもう無理かもだけど」
「………」
「そうなれたら、前みたいにゲームしたりさ、飯食いに行ったり、たくさん遊ぼう。また、友達として」
「うん。友達に降格……。ちょっと複雑だけど」
「こら!動揺させんなよ〜」
お互い微笑んでから、再び深く抱き合った。
「じゃあね」
「うん、元気で」
「楽しかったよ」
「オレも。最高に楽しかった」
手を振る俺に、凪はゆっくり踵を返す。
「波瑠っ!」
「う、え?」
急に振り返るから、思わず前のめりになった。
「ありがとー」
そう言って、今度こそ凪は事務所の階段を上っていった。
もうスタジオでもバッタリ会えないのか。
心の中が変に軽くてスースーする。
涙が勝手に流れて出てきて、歩いている間も、鼻を啜りながらずっと手で拭っていた。
人を好きになるって、こんなにしんどいんだ。
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