ある人との再会 ①

1/1
970人が本棚に入れています
本棚に追加
/90ページ

ある人との再会 ①

 今僕は、虚無の中で息をしている。  ルーカス様に語りかけられても反応せず、食事を拒み、虚な目で天蓋を見つめ1日が終わる。  それでもルーカス様の命令で侍女が僕の世話をしに来る。  はじめは丁寧に対応してくれていた侍女も、何も反応しない僕に嫌気がさし、僕の前でも噂話、陰口、作り話までし始めた。 「ねぇねぇ、この前レオナルド様が倒れられたのってどう思う?」 「どう思うって?」 「私、あれはルーカス様の気を引くための、演技だと思うの。だってレオナルド様ってルーカス様の妃候補だけど、皇帝陛下は他にも妃候補を探されてるでしょ?だから、候補が出る前に婚約したいのよ」 「え!自作自演ってことでしょ?怖〜い」 「でもレオナルド様はこの前のことで流産したとも、聞いたわよ」 「自作自演でも流産は無理よね」 「それでもルーカス様とレオナルド様って、大人同士の関係っぽくないじゃない?だったらお腹の子供はきっとサイモン様の子供よ」 「本当だわ!サイモン様の子供だと、その子は宮廷から追い出されるわよね」 「こんなこと言ったら不謹慎かもしれないけど、どうせ育てられない子供だったら、初めから生まれなくてよかったんじゃない?」 「確かにね」  僕のことはなんと言われてもいい。  でも僕の話にルーカス様を巻き込まないで。  生まれてきたくても、生まれてこれなかった赤ちゃんのこと、そんな風に言わないで!  僕が育てられなくても、どこかですくすく育ち、幸せに暮らしをしていると思う。  生まれなくていい子なんていない!  だから、そんな酷いこといわないで!  何も感じなくなくなったはずなのに、涙が出てくる。  反論したいのに言葉は出ずに、涙が出てくる。 「もう、レオナルド様ってすぐ泣く。涙の跡があったらルーカス様に怒られるから、泣かないでくださいね」  乱暴に涙を拭かれた。 「今日も何も食べられないんですか?でもスープは飲んでくださいね。もう、これ以上、私たちの手を煩わせないでください」  体を起こされベッドテーブルの上にスープを置かれる。  食べたくないけど、食べないとまた酷いことを言われる。  僕のことはいい。でもルーカス様や赤ちゃんのことは、絶対に言われたくない。  味のないスープを無理やり胃の中に流し込んだ。  今日もまた1日が過ぎていく。無意味な1日が過ぎていく。  西陽が部屋に入り込む頃。部屋のドアならノックされ、ルーカス様が入ってくる。 「体調はどうだ?」  優しく微笑みながら、ベッドのヘリに座る。僕は上半身を起こし、何も言わずにルーカス様に微笑み返す。  あれ以来、僕は意識しても言葉が出ない。  こんなに優しくしてくださるルーカス様に対しても、言葉が出ない。  ルーカス様、本当にごめんなさい。  そう思うと涙だけは自然と出て、それがいらだだしい。 「レオ、焦らなくていい。ゆっくりでいいんだ」  ルーカス様はこんな僕を抱きしめてくれる。  そっと瞳を閉じると、また暗闇が襲ってくる。 「今日はレオに紹介したい人がいるんだ」  紹介?  僕が目を開けるとドアがガチャリと開いて、帽子のベル・エポックを深々と被った女性が旅行鞄を手に入ってきた。  誰?  ルーカス様を見上げる。 「ご無沙汰しております、レオナルド様」  女性が帽子を取り、お辞儀をして顔を上げた。  エマ!  そこには懐かしいエマがいた。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!