Chapter*5

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 ――いつから奈央への恋心を自覚したのかは覚えていない。 告白しようとするタイミングはあったが、そもそも茜は告白の仕方を知らなかった。 会話の中でそれとなく伝えようとしたが、いつも上手いことかわされて、伝えられなかったような気がする。 卒業式でちゃんと伝えようと準備していたが、それも叶わなかった。 緊張のあまり一睡もできず、卒業式当日になって高熱を出したのだ。 もし―― 「もしあの時、卒業式で()えてたら、何かが変わってたのかな」 茜は、スマホの画面に映る奈央とのLIMEのやり取りを見つめる。 やっと彼女と再会できたのに、彼女には婚約者がいる。 小学生の時は知らなかったが、茜の両親は周りの噂通りの関係だった。 父親は元々既婚者で、母親は愛人だった。 しかし正妻には子供ができず、愛人である母親が身ごもった。 話し合いを重ね、円満に夫婦が離婚し、母親が正妻になるまでに11年かかったのだ。 小学校の頃、保護者達がそれを噂しているのが、子供の耳に入り、茜はいじめのターゲットになったのだった。 不倫に走る人間は、それを繰り返す。 母親は、せっかく社長夫人の座を手にしたが、ホストに大金を貢ぎ離婚を言い渡された。 茜が星野家に残れたのは、きっと男だったからだ。 大方、後継ぎとして家に置いてくれたのだろう。 茜はパラパラとリングノートをめくった。 茜には、会社の後を継ぐ気は全くない。だから、カフェを始めたのだ。 父から逃げられたようでいて、結局同じオフィスビルにいるのだから掌で踊らされているようなものだろうが。 ♪~♪♪ スマホから着信音が鳴る。 画面には、≪母さん≫と表示されている。 「もしもし?」
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