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「おー。紬生おはよ」
「おはよう、詩織」
今日も今日とて賑やかな教室に入ると、窓際にいた詩織が私をみとめて文庫本を閉じた。
眼鏡美人という言葉がぴったりな、知的さ溢れるその姿は、まさに学級委員にふさわしいと毎度思う。
「今日はいつもより遅かったじゃない。何かあったの?」
「あー……ちょっとね」
詩織の鋭い指摘に、私は苦笑いで誤魔化した。
今朝の燈矢の特大置土産のせいで、しばらく何も手につかなくて、送迎の人たちを待たせてしまった……なんて絶対言えない。口が裂けても。
思い出すと今にも熱が頬に蘇ってきそうで、慌ててふるふると煩悩を振り払う。
そんな私を見て、何か察したような表情の詩織。
「順調そうで良かったわ」
「……なななな何がっ?」
「お幸せに」
からかうような響きに、私はむうと頬を膨らませて抗議の意を示す。が、てんで効果なし。
もしかして私、コックさんたちといい詩織といい、完全に周りの人たちの手のひらの上で転がされてる?と、今さらながらに気づいてしまった。
「ああ、そういえば今日転校生が来るって」
「転校生?」
詩織は後ろの方で盛り上がる集団をちらりと見やる。
「なんでも、すごく美人なんだとか。ただでさえ、うちに転校生なんて珍しいのにね」
「へえ……どんな子なんだろ」
私も詩織の視線の先に注目してみれば、なるほど、みんなの話の種はもっぱら転校生についてみたいだ。
転校生かぁ。
区切りのいい時期でもないし、そう言われると確かに珍しいかも。
それに美人って……詩織もなかなかの美人だし、うちのクラス、運良すぎでは?と何だか変なところに突っ込みたくなった。
とはいえ何気に転校生初体験だった私の心は、自然とわくわく弾みだす。
そんなこんなで予鈴が鳴り、担任が入ってくると、早速本題へ。
「今日から新しくこの学校の生徒になった、鬼城だ」
入っていいぞ、とまねかれて、すらりと高身長な女の子が教室に入ってくる。
その瞬間、明らかに教室内の空気が変わった。
「鬼城 姫璃です。よろしく」
短くそれだけ言い放つと、その子は堂々と歩いて席に着いた。
わかる。
教室内の全員が、今、圧倒されているのがわかる。
雑誌の表紙を飾っていてもおかしくない、いや本当に載っていそうなレベルの、恵まれたルックス。
モデルさんのように、見る人すべてを惹きつけるようなオーラが彼女の周囲を取り囲んで視える。
だけど、そうじゃなくて。
それだけじゃなくって――。
漆黒の、艷やかなロングヘア。釣り目がちの、ぱっちりした大きな瞳。
気のせいか、さっきからずっと私の方を注視してきている様子。
「鬼城は大阪の高校から転校してきた。皆、仲良くやれよ」
その日、私のクラスにやってきた転校生は。
お義母さんの一件の時、斗鬼さんと一緒にいた――そして、私を睨んでいた――あのフリルのスカートの女の子だった。
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