夜更かしをしたそのあとで

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夜更かしをしたそのあとで

大型連休の初日。 車から降り、ビルの間の狭い路地から見上げると、雲のない真っ青な空が見えた。 肌に当たる空気がいかにも休日って感じで、それはいつもの週末よりも強いような気がした。 仕入れたばかりの野菜を抱え、裏口から厨房に入ると、あちらこちらから挨拶の声が聞こえてきた。指示を出しながらホールを覗くと、いつもならとっくにいるはずの男の姿が見当たらない。 この店イタリアン・バル【チリエージョ】は俺と学生時代の仲間が協力しあって建てた店で、俺はここの共同経営者であり総料理長でもある。 そして俺が探している男は、秋津綾介(あきつりょうすけ)というアルバイトの大学生で、俺の大切な可愛い恋人でもある。 「ねえ明彦(あきひこ)、綾介くんがまだ来てないんだけど」 モップを片手にそう話しかけてきたのは、この店で酒とドリンク全般を任せている麻紘(まひろ)という名の男で、共同経営者の一人だ。 大学の頃に知り合ってかれこれ10年。 俺と綾介の関係を知っている唯一の人間だ。 「もしかして、まだ上?」 麻紘が天井を指差して言った。 「ああ、多分な」 店の上には事務所と休憩室、その上には試作の時に使う小さな厨房と倉庫、さらにその上には俺が住んでいる部屋がある。 昨日は俺の公休日で綾介も授業がなく、久しぶりに丸一日一緒に過ごすことができた。 たまの休日なのだからどこか遊びに連れて行ってやりたいと思ったが、俺も綾介も気持ちのブレーキが効かなくて、結局ずっとベッドの上で過ごした。 かなり無理をさせた自覚があるので、今朝は無理に起こさないでおいたのだ。 そうは言っても遅刻させるわけにはいかないので、ギリギリ間に合う時間にアラームをかけておいたのだが、まだ降りてきていないということはまだ夢の中をたゆたっているか、起きたくても起きられない状態なのだろう。 上の階へ続く階段を上がろうとした時、麻紘が俺を呼び止めた。そして、俺の肩に腕をのせ、耳元に顔を寄せると、いつもよりも低〜い声で囁いた。 「30分だ、30分だけ待ってやる。それ以上かかったらドア壊してでも乱入するからさっさと済ませてこい」 そう言って俺の背中をバンッと叩くと、麻紘は仕事に戻っていった。 麻紘の言葉の意味を理解した俺は、心の中で礼を言いつつ、恋人を起こすために寝室へ向かった。
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