”お嬢様”はやっとお嬢様に戻られた

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”お嬢様”はやっとお嬢様に戻られた

・・・寝台へ転がされた感触。 「ありがとうございます」 とノーラの声がしたから。 ・・・誰かが運んでくれたんだろうな。 すまん! ・・・おし、謝った! 俺は偉い! 「偉い偉い」 ノーラの声。 ・・・俺、声に出してたか? 「ずっと出してるわ。・・・いくら、この離宮には人が少ないとはいえ。 もう少し静かにしてね」 ・・・おかしい。ノーラ?気分でも悪いのか? どうして怒ってない? 俺が吞みすぎるといつだって・・・。 「まったく。ほんと呑みすぎね。 やっとおふたりになれる日だというのに。こんな時間までお邪魔して」 言いながらも嬉しそうなノーラ。 「だって・・・久しぶりに見たじゃないか」 「そう、ね」 感極まったようなノーラの返事。 久しぶりに見たのだ。お嬢様の・・・お嬢様の笑顔を。 もう何年も見続けた完璧な微笑じゃないぞ。 ・・・あの頃の笑顔だ。 やっと。やっと戻ってこられたのだ。 「ほら、そっちをむいて」 いつのまにか、シャツのボタンははずされて。ごろりと転がされて片腕を。元に戻されて反対の腕を抜かれる。 さすがノーラ。手際がいい。 腰のベルトをはずし、スラックスも脱がせてくれる。 また転がされ、夜着を着せてくれて・・・。 「下はいいわね。寒くないでしょ?」とボタンを留めてくれる。 ノーラも今夜は機嫌がいい。いつもだったら吞みすぎだと怒られているはずだ。 「・・・ノーラ。愛してるよ」 不意を突いたらしく、ノーラはかけてくれようとしていた上掛けを握って。 ぴたりと固まった。 ・・・その顔がみるみる赤く染まる。 「軽いわね! 会う女性みんなに言っていそうなトーンだわ」 冷たくそう言ったノーラはでも。 「・・・だけど。かなり覚悟を決めて口にしたんだってことが、ばればれね」 俺の耳をすっと撫でた。・・・赤くなっているのだろう。 どうしてそんなに観察眼が鋭いのさ。 とても恥ずかしくなって、俺は上掛けを引っ張り上げる。 ノーラはそんな俺をくすくすと笑いながら、自分も眠る用意をし始めたようだった。 あぁ、君が。本当の俺に気付いてくれて良かった。 おかげで愛する妻に愛する子どもが持てたのだから。 俺は人に恵まれた。 俺は。 自分の運の良さが自慢だよ。
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