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 下校の時刻となった。  定由(さだよし)教諭が立ち去るなり、窓際の一番後ろの席目がけて、どやどやとクラスメイト達が群がっていく。 「蜂矢君、蜂矢君! 一緒に帰ろうよ。で、どっか寄り道して遊ばない?」 「超能力の話、ぜひ聞かせて! 透視の他にはどんなことができるのさ」 「あの~、蜂矢君ってすごく大人っぽいけど、恋人なんている? いない、よねぇ……?」  ぼんやりとした黒い亡者達に加え、活気溢れる同級生達にも取り囲まれてしまった友人。……その横で、捨太郎は窮屈な思いをしつつ、なんとか帰り支度を整えた。  ちょうどその頃合いを見計らったかのように、魁はガタリと立ち上がった。 「うっし。帰るか、ポカポカ」 「……! う、うん!」  晴れやかな笑顔で呼ばれ、温かくてくすぐったいものが胸にこみ上げる。たぶん彼は、嫌いな勉強が終わったのが嬉しいというだけの笑顔なのだけれど、捨太郎も負けないくらい笑っていた。  黙って道を空けるクラスメイトらに見送られ、ふたりと幽霊達は教室を出る。たくさん走り回ったのだろうハニワもちゃんと合流し、パカパカと軽やかに飛び跳ねた。  五味(ごみ)捨太郎――。白くて細くて弱っちくて、大好きだった長兄を為す術なく失い、生みの親にも惜しまれず手放された。  何の特別も持ち合わせない自分であるけれども。持て囃される魁を見ても、不思議と、彼はもうこちらに構ってこないのではないか、捨てられるのではないか……という心配だけはなかった。一片の疑いも抱きはしなかった。  そうせずに済んだのは、決して自分に自信があるからではない。ひとえに魁のお陰だ。彼の性質を把握させてもらえたからだ。君はそういう人じゃないものな、という、全幅の信頼を預けてしまえる相手だからだ。  自分というものについて、好きではないと感じる部分は、根深くこびり付き、変えるのが難しい箇所でもある。今朝のように、悪い夢を見た挙げ句、過去に飲み込まれて膝を付くことが……これからも幾度となくあるに違いない。  それでも、彼と友達でいられる限り。きっと、これまでの人生よりもしっかりと顔を上げ、笑って生きていくことができるはずだ。  彼の立場。鬼瓦に身を寄せ、社会に背き生きようという意思。そして、部屋に満ちた黒い闇……常に付きまとう幽霊達。  何もかも、問題ではない。魁ならうまくやっていく。  自分は彼の友だ、永遠に。彼そのものは勿論、取り巻く事柄に関しても、恐れ、忌避する理由はどこにもない。――快い春の風に頬を撫でられつつ、捨太郎はそう確信した。
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