7代前の王の側室

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 朝、目が覚めたらタッチパネルに今日の気分を入力する。今日は3。昨日も3。きっと明日も3。10段階評価だが、真ん中ならば5にするべきなのだろうが、もう何年も続けてしまって変えられない。2にしたら朝食に甘ったるいデザートがついてきたからちょっとお腹が痛くても変えないことにした。  このシステムができて十数年。私はエルフでとてつもなく長く生きるから、きっと次のシステムも習得せねばならない。歯を磨くことはずっと昔から変わっていない。歯磨き粉はカラフルになったり味がついたりしたが、この塩っぽいのが好きである。 「朝葉(あさは)さま、おはようございます。朝食です」 「日暮(ひぐらし)さん、おはよう」  私たちはニースパリアという国に暮らしている。覚えている限り、私の年齢は700歳ほど。日暮さんは新人の専属従者で、私の名をきちんと発音してくれる。私の侍女になってまだ半年足らず。この名を私につけてくれた夫だったレイドワルブは500年以上前に亡くなった。 「朝葉さま、本日はロベルフさまの第6夫人がお輿入れのご挨拶に参られます」 「はーい」  朝食はレーズンパンと卵にフルーツ。王様だったのに夫はそれを好んだ。故に私もずっと好き。あなたがいなくても一人で咀嚼する。 「もうカプセルひとつで一日の栄養が取れるという時代に…」  日暮さん、若いのに健忘症なのではあるまいか。月に数回はその話題。 「だって、晩餐会があるから料理人をクビにできないし、仕事がないのはかわいそうではないか」  食材を作る農民たち、料理人たちの家族の生活がかかっている。  ロベルフとは現王の名である。あやつはまた嫁を増やすのか。盛大な結婚式のやめにもやっぱり料理人は必要だ。 「朝葉さまはお優しいですね」  毎日することがない苦しみを日暮さんは知らないのかもしれない。
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