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翌朝、出勤すると要先輩が心配そうに声をかけてきた。
「伊吹くん、昨日、大丈夫だった? 返信がないから心配したよ」
そういえば、社長から電話があって要先輩へのメッセージを打ち込んでいる途中のまま、気が抜けて返信するのを忘れていたんだと思い出す。
「すみません。要先輩。返信しようとしているところに社長から電話が来て、真白が目を覚ましたって……俺、今日、半休を取って真白に会いに行きます」
「本当!? 良かった……」
要先輩が気が抜けたように自分の席に座り込んだ。
俺も要先輩の隣の席に腰を落として、でも肝心なことを言わなきゃ、と要先輩を見つめる。
「でも……真白は俺に会いたくないって言ってるらしいんです。俺に嫌われた上にこんなことをしてしまったから、合わせる顔がないって言ってるみたいで。だから今日、真白には会いにいくことを伝えてないんです」
「佐伯先輩……そんな風に思い詰めちゃったんだ……」
要先輩が悲し気に瞼を伏せた。
本当に、俺の行動がいけなかった。少しでもよそ見して、真白を信じられなくなっていた自分が悪かった。真白を嫌いになることなんかないのに。
「俺はやっぱり真白が好きだから……執着だって愛だと受け止めるから……戻って来て欲しいんです。俺の傍に」
「うん。ちゃんと佐伯先輩に伝えてあげて? 社長だって、後押ししてくれてるんだし。伊吹くんと佐伯先輩がある種、羨ましいよ。俺と孝太郎は、まだ親にカミングアウトなんて考えてもいないから」
俺の親にはまだゲイでもないのに男と付き合っているなんてとても言えそうにないけどな、と苦笑しつつ、でも確かに社長がついていてくれるのは心強かった。
真白、ちゃんと俺の気持ち伝えに行くから。
俺も愛してるよって伝えに行くから。
真白が会いたくなくたって、俺は会いたくてたまらないんだ──。
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