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かっ、と頬が熱くなった。そしてその変化を、岩村は、見逃さない。「まじかよおまえ……入社して早々課長と出来るったぁおまえ……」
「いいじゃないの。松岡課長は、わたしを認めてくれたんだから。大切なひとなの」
むきになる紫奈子を見て、切なそうに岩村は微笑んだ。「ふぅん。そうなんだ。……気づいてんのおれだけだから、あんま、ばれないように動けよ。話はそんだけだ。じゃあな」
なんだったんだろうあいつは。――マスクをする紫奈子をやたらと気にかけ、声をかけてきた同期。
先に紫奈子がセキュリティカードをかざして室内に戻ろうとすると、小さな、岩村がぼやいた声が、聞こえた。
「おれ。おまえのこと、結構好きだったんだぜ」
* * *
マスクをつけ続けるひと。
外すひと。選択肢は――様々だ。
でも。
人々の判断を尊重出来る自分になりたい。もっと――自分を好きになりたい。
だって。
こんなわたしを支えてくれた彼がいるのだから。
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