私になるまでの つかの間の一生

ドン太は吠える

#1

　ドン太は、わが家の隣の家で飼われているゴールデンレトリーバーだ。きちんと手入れされ、顔も端正で、なかなかのイケメン犬だ。
　なのに、小さな頃は、私を見ると他の人には吠えないのに、必ず吠えてきた。
　散歩の途中ですれ違う時にも、私と目が合うと必ず「ワン！」と吠え、その都度、私は親の後ろに隠れたり、時には泣くこともあった。
　だから、体の大きなドン太を、私はずっと怖がって来たのだ。

　なぜ、私にだけは吠えるの？
　仲良くしたいのにさ

　そういつも思っていた。

　しかし、小学校に入り高学年になっても、ドン太は、私にだけは必ず吠えた。

「どうしてかしらねぇ」

　ママも不思議がり、隣の家の村上さんの、ドン太散歩係のお父さんも、そのたびにごめんねと謝るまばりで、まったくもってドン太が吠える理由は不可解なままだった。