三章 砂漠の皇子の求婚は波乱のはじまり

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「クラス発表だ! ルーチェ、見に行こう!」 「見なくても何組かわかるよ」 「まぁ、確かに。五組だよね」  わたしたちの学校は、成績と進路によって一組から五組まで振り分けられる。  一組は成績優秀者。二組は成績優良者。三組はスポーツ進路者。四組は専門能力者。五組は成績不良者。  掲示板に貼られたクラス分けは案の定、わたしとルーチェ、ともに五組だった。担任は、ユガリノス先生。  ルーチェは、あからさまな顔をして不満を口にした。 「あいつ。頭の悪い生徒を見下すのが好きだから、五組を担当するんだ」 「そうかなぁ?」 「絶対にそう。あんな性悪嫌味男じゃ、気分が上がらないよ。ねぇ、ノアナ。サボって、お菓子買いに行こうよ」 「ううん。ホームルームに出る。わたし、もうサボらない」 「えぇ?」  わたしは遅刻とサボりの常習者。唐突な変化に、ルーチェはポカンと口を開けた。 「え? 本当に心を入れ替えたの?」 「ルーチェ、おはよう。俺、すごいんだぜ。四組になった!」  ベルシュが、ふっくらと焼けたメロンパンのような笑顔で近づいてきた。  わたしとルーチェとベルシュは、おバカ三人組。卒業するまで、三人揃って五組だと思っていたのに……。 「嘘でしょう! 学園長に賄賂を送ったの⁉︎」 「そんなことしないって。……え? 誰?」  ベルシュの眼差しがわたしに向けられた途端、彼の瞳に困惑が浮かんだ。 「誰って、ノアナですけど」 「ノアナ⁉︎ なんか違くない⁉︎」 「あー、そうそう、変身したの。もう、ピンクブロッコリーとは言わせないぞ!」  緩やかに波打つ艶々のピンク髪を、さらりと指で払う。  ベルシュの目元が朱色に染まった。 「か、かか、か、髪型が変わると、変わるんだな……」 「まぁね。素敵な美容師さんに切ってもらったんだ。いいでしょう」 「だ、だだ、だな。今までざっくりした髪だったもんな。その……」    ベルシュは、目を忙しなく泳がせた。 「どうしたの? 変だよ」 「な、なんていうか、あの。ノアナ。か、かわいくなった……痛っ!」  後ろを通っていた背の高い人の腕が、ベルシュの背中に当たった。 「すまない」  謝罪主は、ユガリノス先生。  ベルシュは唖然とした表情で、パチパチと瞬きを繰り返した。 「あ、えっと、大丈夫です」 「あ、そうだ、先生! ベルシュが四組みたいなんですけれど、間違いですよね。学園長、ベルシュパン屋に買収されちゃったのかな?」  わたしの質問に先生は、「私がベルシュを四組に入れた」と驚くべき返答をした。 「ベルシュは自分より点数の悪い生徒がいるからと安心して、勉強を怠っている。ベルシュには伸び代がある。四組は意欲的な生徒が多いから、彼らといることでやる気が出るだろう。ベルシュ、頑張りなさい」 「この声……え? ユガリノス先生?」  先生が立ち去ってすぐ、ルーチェがわたしの肩をバンバン叩いた。 「いて、いてて」 「え、なになに⁉︎ 今のイケメン、ユガリノス先生なのっ⁉︎ 大人の男の色気が漂っていて、マジやばいんですけどっ!!」 「あ……そうか。先生が変身したこと、知らないんだよね」  先生は、暗黒の呪いとモジャ髪とダサイ黒縁眼鏡から解き放たれた。  必然的に、ユガリノス先生かっこいいと、掲示板前にいる生徒たちがはしゃぎ始めた。  これはヤバい。噂が広まって放課後までには、全生徒がユガリノス先生に惚れてしまう。早急に対策を打たなくちゃ!!  先生のお試し妻って、本当に大変。    
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