飛田遊郭 ~胡蝶風月~

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 皮肉にも、恵介が貼ってくれた沈痛消炎剤の湿布が効いてきた。 (これならまだなんとか走れる。このまま、どこかの交番所まで逃げきってやるんだから)  後ろからは、恵介がわめきながら殺気だった顔で駆けてくる。 「待たんかえ! おまえ、警察に言われてもええんやな!」 (好きにすればいいわ。このままあんたの言うことに従ってたら一生、あの建物から出られへんし。体がボロボロになるまで働かされてるのがおちだわ。それなら、いっそ警察に捕まる方が、よっぽといいに決まってるんだから)  全速力で逃げる紗綾は、先程、車窓から見ていた飛田新地の通りを駆け抜ける。  もうすでに正午をまわっており、湧き立った雲の隙間からは太陽の光が射し込んでいた。
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