同類

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 あまりにも身勝手すぎる彼女の条件に、俺が付き合う理由なんてなかった。  本当に病気なのかも分からないし、必死にお願いして俺がその条件を飲んだとしても、彼女はあまりにも自尊心というものがなさすぎると思った。けれど、周りを見れば俺が彼女を泣かせたと思っている人たちが大勢いて。早くこの場から去りたい気持ちが生まれ、背中を丸めながらとにかく彼女に泣き止んでほしくて「俺はどうすればいいの?」と口にしていた。 「半年……半年でいいので恋人になってください」 「ごめん。それは出来ない」 「え?」 「俺は君の恋人にはなれない。でも、そばには居る」 「…………」 「君を好きになることは、奇跡が起きたとしてもないから」 「……好きになってもらうように頑張ります」 「君がどれだけ頑張っても無駄だよ。俺が愛してるのは弥生だけだから」 「わかりました。でも、死ぬまで私のそばに居てください。時間がない私の生きる意味になってください……」   「……分かった」  そう返事した瞬間から、俺は完全に道を踏み外した。  半年以上彼女と毎日のように過ごすようになったけど、彼女に愛が芽生えたとか、そんな綺麗なことは一切ない。彼女の死を見届けるまで一緒にいなくちゃいけないという、謎の使命感に駆られているだけで……手を繋ぐことも、抱きしめ合うことも、キスをすることも、勿論その先も一切していない。  ただ彼女の隣に寄り添い、肩を貸してほしいと言われたら貸したり、同じ香水を一緒にいる時はつけてほしいと言われたから従っているくらいで、恋人らしいことは一切していない。  その先のことを彼女は求めているみたいだけど、俺はそんなの無理だ。弥生以外に触れるなんて嘘でも考えたくないし、君に時間を使ってあげているんだから、それ以上のことは求めないでほしかった。
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