74.その歌声は、旦那様に最愛を捧ぐ。

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「ヒトは大変欲深い。この力は到底ヒトの身には扱いきれぬものです」  この力を自分が、そしていつかまた別の誰かが受け継いでいったなら、この力を巡りまた要らぬ争いが起こるだろう。  そうなればまたルヴァルが、あるいはアルヴィン辺境伯の名を継ぐ誰かが剣を抜かなくてはならないから。 「私はこの力のために私の大事なヒトを争いに放り込みたくないのです」  黄金の鳥は双眸でじっとエレナを見つめ、それで良いのか? と尋ねるように鳴き声を上げる。 「大丈夫、ですよ。歌の魔法が紡げなくても、私はきっと歌い続けるから」  許されるならただのヒト(エレナ・アルヴィン)として生きていきたいとエレナは願う。  ただひとりのためだけに歌を紡ぐ歌姫として。  ヒトの中に彼女の居場所があるのだと理解した黄金の鳥は、羽根を広げると一際美しい音を奏でる。  するとエレナから光り輝く球体が抜け出し、それは神獣の中に吸い込まれる。 『キューキュルルルルル』  別れを告げる鳴き声を上げた神獣は、ふわりと羽ばたくとあっという間に空の彼方に消えていった。 「……レナ」  一部始終を静かに見守っていたルヴァルはエレナに大丈夫かと声をかける。 「もうこれで本当に私には何もない」  ノーラの研究記録を取り戻し、そこにかけられた誓約を解呪した事で、リオレートはようやく自由の身となった。  それによって消失したフィリアの魔法技術は、復元できない方がいいとルヴァルが燃やしてしまったので、カリアの音の魔法はもうどこにも存在しない。  カナリアの力は先程神獣に返還した。 「カナリアの力もない。実家は没落する予定だし、社交界に人脈だってないし、きっとこれからたくさん面白おかしく悪評が囁かれるし、妻として手元においてもルルにとってメリットになりそうなモノを何も持ってないんだけど」  それでもここにいてもいい? とエレナはルヴァルに問いかける。 「おかしな事を聞く」  ふっ、と笑ったルヴァルはエレナを抱え上げたまま、まるで小さな子どもに行うみたいにクルクルと回る。 「わっ、ちょ、ルル! 危なっ」  抗議の声を上げたエレナと一緒に雪の上に倒れ込んだ楽しげなルヴァルと目が合いエレナは目を瞬かせ、クスクス笑う。 「ふふ、もう! 雪まみれ」 「レナもな」  ひとしきり笑い合った後、ルヴァルは近い距離でエレナの紫水晶の瞳を覗き込み、 「俺のためだけに歌ってくれるんだろ?」  とエレナに尋ねる。  手放す気はないと語る青灰の瞳にエレナが頷くとルヴァルは十分だと答え、エレナに口付けを落とし、 「帰るか、俺たちの城に」  そう言って顔を紅くしたエレナに優しく手を差し伸べた。
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