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74.その歌声は、旦那様に最愛を捧ぐ。
地上に降りたドラゴンを開けた場所に繋いでしばらく歩いた先で、ルヴァルが足を止めた。
「……ここ?」
「ああ」
ルヴァルは短くそう答え、一角を指さす。そこは、ルヴァルが1度目の生を終えた場所だった。
ここでルヴァルは白い狼と契約した。回帰後の人生で幾度となくここを訪れたがあの神獣に再び出会うことはなく今日に至る。
バーレーに戻ってすぐ、ルヴァルはエレナに1度目の生の最期を話した。じっと考え込んでいたエレナは、そして今日ここに来る事をルヴァルに願ったのだった。
「雪、がいっぱい」
エレナは驚いたように目を瞬かせる。バーレーがいくら北部とはいえ、山奥を除けばまだ雪が降る季節ではないというのに、一本の大きな木を中心としたその一角だけはまるで時間が切り取られたかのように真っ白な雪に覆われていた。
「あれがうちが護っている神獣の宿木。つまり神木だな」
ルヴァルの説明に頷いたエレナはそっと神木に近づき触れる。
息が白くなるほど空気が冷たいのに、その木はとても暖かく、鼓動しているかのようなとても穏やかで心地の良い不思議な音が聞こえた。
『我々はカリアが祈りを込めて歌ってくれれば、どこからであったってその歌の魔法を聴くことができる』
エレナはカリアの記憶を思い出す。
荘厳としか言いようのない、大きな黄金の鳥の形をした神獣の姿を。
「〜〜〜♪----♪」
エレナは目を閉じて、願いを込めて歌を紡ぐ。
それはかつてカリアがよく神獣達に強請られて歌っていた歌。
美しい音を集めた短いその歌を歌い終わり、エレナはゆっくりと目を開け振り返る。
「おいでくださり、ありがとうございます」
そこには黄金に輝く羽根を持つ、神々しい鳥がいた。
『キュークルルルルルル』
膝を降り手を組むエレナに向かって、鳥は大きな鳴き声を上げる。
それは心の奥深くまで届くような懐かしくも優しい音。
『キュークルルルルル』
親しげな声を聞き取りながら、
「……私ではもう、お言葉を聞き取る事が難しいようです」
エレナは申し訳なさそうにそう告げる。
カナリアが代替わりを経ていく内に交わせなくなった言葉。
カリアが神獣から力を譲り受けてからそれほどまでに膨大な時間が流れたのだ。
音を司るが神様が、代替わりを果たし再びこの世界に生を受けるほどに。
『キュークルルル』
黄金の鳥は承知していたというかのように羽根を広げ、綺麗な声で鳴き声を上げた。
その美しい鳥に向かって、エレナは淑女らしく礼をすると、
「音を司る神獣様。私は当代カナリアとして、カリアの魂ごとこの力をあなた様にお返ししたく思います」
静かに願いを口にする。
カリアの魂に刻まれた歌の魔法の旋律。それはきっと神獣達が健勝であるために必要なモノ。
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