74.その歌声は、旦那様に最愛を捧ぐ。

3/3
1050人が本棚に入れています
本棚に追加
/174ページ
**  腕にたくさん楽譜を抱え込んだ銀髪の小さな女の子がパタパタと城内をかけて行く。 「セシルお嬢様、そんなに慌ててどうされました?」  お嬢様は今日もお元気ですねぇと笑いかけたリーファに、 「ねぇ、リーファ。お母様とお父様知らない? 2人ともレッスンの時間なのに来ないのよ!」  セシルはお約束は守らないとダメなのよ! と頬を膨らませてそう尋ねる。 「ソラお兄様も見当たらないし。もう! セシルだけ置いてけぼりはズルいのよ!」  むぅっと頬を膨らませた仕草が子どもらしく可愛くてリーファは思わずクスリと笑う。 「そうですねぇ、おふたりならおそらく」 「お、お嬢じゃん。なんだ、またソラ坊に置いてかれたん?」  リーファが居所を伝える前に工具を持ったノクスがそう声をかける。  じーっとノクスを見たセシルは、 「リーファ。セシィもお母様達の居場所わかったかも」  母親譲りの紫水晶の瞳で柔らかく笑い、ありがとうと2人にお礼を言って駆けて行く。  その小さな背中を見送りながら、 「はぁ、うちのお嬢様超可愛い」 「超同意。俺もあんな娘欲しい」  今日も平和だなぁと2人は小さな背中を見送った。  パタパタと城内を走っていたセシルは、とある部屋の前で立ち止まる。そこは古いピアノが置いてある部屋。 「あ、ソラお兄様」  声をかけられた黒髪の少年は青灰の瞳でセシルに笑いかけると静かにと言って手招きする。 「お兄様だけずるいわ」 「ごめんって」  2人はそっとドアを開け、部屋の中を覗き込む。  ドアを開けた瞬間、心踊るような楽しげなピアノの旋律と美しい歌声が屋敷内に響き渡った。  2人の目に映るのは、ピアノを弾きながら優しい表情で歌うエレナと目を閉じたままその歌声にじっと耳を傾けるルヴァルの姿。  まるで一枚の絵のようなその光景を見るのが2人はとても好きだった。  最後の一音が部屋に響き、余韻に浸っていると、 「2人ともそんな所にいないで入ってくればいいのに」  とエレナがいらっしゃいと手招きする。  素直に部屋に入って来た2人のそれぞれの持ち物を見て、 「悪い、今日はソラに剣の訓練をつける日だったな」 「あ、ごめんなさい。私もセシィとお歌のレッスンのお約束をしてたわね」  うっかり時間が過ぎてしまっていた事をそれぞれ詫びる。 「まぁ、別にこの後予定ないから時間ズレてもいいんだけど」  と言ったソラはちょこんとエレナの隣に座る。 「お母様のお歌、セシィとっても大好き」  そう言って楽譜をエレナに差し出したセシルはルヴァルに抱っこを強請る。 「あら、リクエストってことかしら?」  待たせてしまったお詫びに可愛い2人にお応えしないとねと言って、エレナはピアノに指を伸ばす。 「じゃあ、ソラが弾ける曲を一緒に奏でましょうか」  そう言ってエレナが弾き始めたのは、最近ソラが弾ける様になった童謡でそれに合わせてセシルが歌い出す。 「ふふ、2人ともとっても上手」  そう言ってエレナは可愛い子ども達の頭を優しく撫でる。  するとルヴァルが無言でエレナの髪を少し乱暴な手つきでぐしゃぐしゃと撫でた。 「あらあら、困ったパパね。子どもにまで妬かなくてもいいのに」  とちょっと不器用で、とても優しい、大好きな旦那様の青灰の瞳に笑いかける。 「レナも撫でて欲しそうだなと思っただけだ」 「ふふ、髪ぐしゃぐしゃになっちゃった」  楽しげにそう言ったエレナは少し髪を整えて。 「じゃあ、今度はルルのために歌おうかな」  そう言って幸せそうな顔で笑うエレナは、今日も要塞都市バーレー(最北の地)で美しい歌声を響かせる。  最愛の人の唯一の歌姫として。 ーーFin あとがき。 お読み頂き、ありがとうございます。 皆さまのおかげで無事エンディングを迎える事ができました! 2人のお話しはこれでおしまいですが、スター特典や番外編もありますのでぜひご覧頂けると嬉しいです。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!