第1話

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「あ、いえ、まだです。すみません」  穂高が慌ててこう答えると、夏海はもう一歩穂高に近づいて、少しだけ声量を落としてこう言った。 「よかったら、お食事していきませんか? お客さんは初めてですから、飲み物はサービスしますよ」  声を潜めていたわけではないが、内緒話をしているようで、穂高の鼓動は急速に高まった。  ほのかにいい匂いも感じられて、穂高はすぐに反応することができない。 「おすすめはミートソースです。お飲み物は、アイスティーなんてどうですか?」 「じゃあ、それを……」  言われるがまま注文をしてしまった穂高。  それに対して夏海は満面の笑顔を見せて、奥の厨房へとオーダーをしに行った。  ほどなくして戻ってきた夏海の手には、他の客のものと思われる料理があった。  さっきと同じように大きな声で客の名を呼び、取りに来た客と楽しげに談笑する。  ここに通えば、自分もあんなふうになれるんだろうか。  穂高にとってそれは、とても魅力的な光景だった。  心のよりどころというか、家以外で安らぎを得られる場所になるかもしれない。  落ち着いた店内で、愛想のよい店員がいる。  家からも近いし、メニューの値段も安い。見たところ客層もバラバラで、一人の客が多い。  これ以上ない環境だと思った。あとはこれから出てくる料理がおいしければ完璧だ。
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