いざ、東京へ!

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いざ、東京へ!

「もう、楓花(ふうか)。いつまで()ねてんねん。もうすぐ東京、つくんやで?」 車の助手席に座っていたおかんが振り向きざまに、後部座席に座っとった(ウチ)を見て言うた。 いま(ウチ)が乗ってる車は、高速道路をビュンビュン走って、(ウチ)の故郷やった大阪から、ものすごいスピードで離れていってる。まるで走馬灯みたいに、周りの景色が過ぎ去ってくなか、(ウチ)は唇を尖らせて言うた。 「だって引っ越し、嫌やねんもん。おとん、今からでもいいから、仕事かわって! そんで、大阪もどろーやー!」 運転席にしがみつくようにして揺らしながら、(ウチ)はおとんに抗議する。 するとおとんは、バックミラー越しに(ウチ)の顔をチラッと見た。 「仕方ないやろ。この不景気、どこも中年のおっさんなんか雇ってくれへん。人事には逆らわれへんよ、クビになる」 (ウチ)はジト目で、バックミラー越しにおとんを睨んだ。 「だってほんまに嫌やねんもん。友達おらんし、東京モンは冷たいっていうし。小5にもなって、またいちから人間関係作らなあかんなんて、神様は意地悪や。あと2年で中学やのに、なんで2年、半端に頑張らなあかんのよ」 「新しい友達、東京でもつくったらええやないの。あんた、友達作るの得意やろ?」 おかんが呆れたようにそう言うと、椅子に座り直し前を向きよった。 「もうすぐ新居につくんやし、腹決めて気張り!」 突き放すようにおかんにそう言われて、うちは内心泣きたくなった。 だってせやろ? もう5月。 出来上がったグループの中にひとり、入ってくんやで。うまくいかんかったら、ボッチになる。それだけは嫌や。 「友達できへんかったら、どないするんよ」 「あんたはお母ちゃんの子や。いじめられるタイプやない。もし友達できへんかったら、孤高の一匹狼気取っとき」 「そんなん、好き好んでなりたない。」 「せやったら、友達作り、頑張るんやな。お母ちゃんもご近所付き合い頑張るから、楓花(ふうか)も気合い入れてきぃや!」 ふんっと両腕でガッツポーズするおかんに、(ウチ)は嘆いた。 「大阪戻りた~い!!」 結局、戻らへんねんけど。 こうして(ウチ)の東京生活が、無理やりスタートした。
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