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「不死身か?……脊髄だぞ」
「ちょっと自信なくしちゃうね、代わる?」
「悪いが生憎、ツノもツメも生えてないんだ」
「あららそりゃカワイソウニ……」
「――僕が脚を止める。首か目か、もう一度背中か……とにかく折れそうな箇所を頼む」
「……解った。踏まれないでね、」
「任せろ――来るぞッ!」
絶叫と共に、龍は再びコチラへ脚を進める。
気圧されてはいけない。強く息を吸う。折れた脚をかばい、歪な四足歩行を向ける鳥類。嵩マシにと拳ぐらいの石を抱え、ラガーマンに就職した男と共に。ヒトかどうかも解らぬ絶叫を上げながら、二人は龍に飛び込んでいった。
でたらめな三本脚で空を昇る朱黒の雷が一つ。ほぼ同時に大地を割りながら真っ直ぐと、同じ色の雷が龍の足下へと入り込んでいく。
「な"――折れろッ!」
願望をそのまま咆吼に掲げて、男は抱えた石を龍の膝に向けて叩きつけた。
龍の絶叫が森にこだます。鼓膜を通ってビリビリと、絡みついた死神の噛みを振り払う生命の抵抗の断末魔が響く。
「せーのぉッ!」
耐えられる時間は短い。両翼でしがみついた木を鉄棒代わりに、躊躇無く飛びかかる。
もう一度、今度はより深く、同じ場所をえぐる。
蹴りつける。飛びかかる。正々堂々の殺意を籠めて。
しかし目的を逸れて、私の脚は龍の翼をかすめた。
不時着した飛行船のように、地面を転げ回る。尻餅をつき、そのまま倒れ込んだ。
……失敗したらしい。
口に入り込んだ砂を吐き出し、そのまま周囲を耳で探る。
おかしい。殺意の向いた脚もなければ、どこにも男の声が聞こえない。
「ここだッ!」
「え、上!?」
思わず叫んでしまった。
何故かソコから聞こえた男の悲鳴にも似た指摘に、私の視線は、龍を見つけることも忘れて引っ張られてしまった。
見上げた先で、男は明らかに折れた右手を振り回している。どうやら蹴り飛ばされて、たまたま枝に引っかかったらしい。
「だいじょうぶ?」
軽いジャンプでステージに昇る感覚で、即座に彼の元まで飛んでいく。
「……すまない、重さまでは変わらんよな」
「そーそー、いや引っかかって良かった」
「……無かったら?」
「特急。上空まで」
「……あぁ」
「降りるよ、口閉じて」
上空から龍を見つける。どうやらコチラにはまだ気付いていないらしい。普段空に浮かびすぎて、仕留めたエモノを担ぐ猟師のように、地面に向かって滑空する。
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