⑱ ちぐはぐのそよかぜ

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「不死身か?……脊髄だぞ」 「ちょっと自信なくしちゃうね、代わる?」 「悪いが生憎、ツノもツメも生えてないんだ」 「あららそりゃカワイソウニ……」 「――僕が脚を止める。首か目か、もう一度背中か……とにかく折れそうな箇所を頼む」 「……解った。踏まれないでね、」 「任せろ――来るぞッ!」  絶叫と共に、龍は再びコチラへ脚を進める。  気圧されてはいけない。強く息を吸う。折れた脚をかばい、歪な四足歩行を向ける鳥類。嵩マシにと拳ぐらいの石を抱え、ラガーマンに就職した男と共に。ヒトかどうかも解らぬ絶叫を上げながら、二人は龍に飛び込んでいった。  でたらめな三本脚で空を昇る朱黒の雷が一つ。ほぼ同時に大地を割りながら真っ直ぐと、同じ色の雷が龍の足下へと入り込んでいく。 「な"――折れろッ!」  願望をそのまま咆吼に掲げて、男は抱えた石を龍の膝に向けて叩きつけた。  龍の絶叫が森にこだます。鼓膜を通ってビリビリと、絡みついた死神の噛みを振り払う生命の抵抗の断末魔が響く。 「せーのぉッ!」  耐えられる時間は短い。両翼でしがみついた木を鉄棒代わりに、躊躇無く飛びかかる。  もう一度、今度はより深く、同じ場所をえぐる。  蹴りつける。飛びかかる。正々堂々の殺意を籠めて。  しかし目的を逸れて、私の脚は龍の翼をかすめた。  不時着した飛行船のように、地面を転げ回る。尻餅をつき、そのまま倒れ込んだ。    ……失敗したらしい。  口に入り込んだ砂を吐き出し、そのまま周囲を耳で探る。  おかしい。殺意の向いた脚もなければ、どこにも男の声が聞こえない。 「ここだッ!」 「え、上!?」  思わず叫んでしまった。  何故かソコから聞こえた男の悲鳴にも似た指摘に、私の視線は、龍を見つけることも忘れて引っ張られてしまった。  見上げた先で、男は明らかに折れた右手を振り回している。どうやら蹴り飛ばされて、たまたま枝に引っかかったらしい。 「だいじょうぶ?」  軽いジャンプでステージに昇る感覚で、即座に彼の元まで飛んでいく。 「……すまない、重さまでは変わらんよな」 「そーそー、いや引っかかって良かった」 「……無かったら?」 「特急。上空(てんごく)まで」 「……あぁ」 「降りるよ、口閉じて」  上空から龍を見つける。どうやらコチラにはまだ気付いていないらしい。普段空に浮かびすぎて、仕留めたエモノを担ぐ猟師のように、地面に向かって滑空する。
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