391人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
1.あなたの瞳に
薄暗いオフィスにコピー機が延々と紙を吐き出す音が響く。
20名分のデスクが並ぶオフィスは、日中は活気に溢れているけれど今はからっぽ。
もうすぐ日付が変わる。
一人残業を押し付けられることには虚しさを覚えるけれど、他人の目を気にしなくて済む時間は好きだ。
上司の顔色を伺う必要も、同寮の女の子たちの噂話を聞くこともない。
「はーーーーーーっ」
美南は長いため息を吐いて、コピー機に突っ伏した。
明日の朝イチの会議で使う資料らしい。
随分前に決まっていた会議なんだから、資料の手配ぐらいさっさとやっとけっつーの。
ピーっという音を立ててコピー機が止まった。用紙切れだ。これから項目別ごとにホチキスで留めて、それをさらにクリップでまとめて、人ごとにまとめておかなければならないのに。
資料を作るところで気力も集中力も使い果たしているので、用紙をセットするだけの作業もひどく億劫で。
よっこいしょ、とか、はーとか、やれやれ、とかとにかく疲れた独り言が口をつく。
「もー、さっさと動いてよ」
追加した用紙をなかなか認識しないコピー機にいらついて、思わず足でがつんと蹴る。
まあ誰がいるわけでもないし、と完全に油断していた。
「朝霞?」
やばい、と思ったのは一瞬で。
それと同時に、室内が明るくなる。
眩しくて思わず目を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!