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ダメージと外からの圧で、肺の機能が抑制される。普段なら除けられる重みが払えなかった。体が動かない。指一本すら動かせない。濃い血の臭いが、嗅覚全てを支配する。
こうするしかなかった。殺さなきゃ僕の方が死んでた。なんて、このままじゃ結果的には同じだけど。
僕に寄りかかる男の体温は、夜風に浚われとうに消えた。今度は僕の温度が奪われはじめている。星も滲んだ視界の中、思い出すのは碌でもない人生だ。
唯一の肉親である母親に、借金と性的欲情を押し付けられた。助けも得られず男娼しながら愛を探した。何度騙されても。
結局、この男も嘘つきだった。職場以外で愛を囁かないで欲しかった。僕にはそれだけで全て捧げる理由になってしまうから。いや、違うな。最後まで貫き通してくれるなら、嘘でもよかった。
五感が徐々に活動を諦めてゆく。死の気配に、無念だけが抵抗を試みた。誰がの垂れ死のうとも構わない。死体だって珍しくない。ここはそんな国だ。だから、愛されなかった僕なんかは、当然誰にも探されないだろう。
だとしても、寂しさや抵抗はある。死ぬならせめて、誰かの顔を浮かべて死にたかった。
目を閉じかけた時、突如として重みが外された。人の気配に何とか顔を起こしたが、形すら捉えられなかった。
「生きてたのか。ちょうどいい、こいつの名前は××?」
フルネームで訪ねられ、浅く肯定する。思考は停止し、目先の事態への反応で手一杯だ。だが、本能は諦めたはずの生を訴えはじめた。
「にしても見事だなぁ。一撃か」
男は剥がした死体の胸を、そこに埋まるナイフを眺めているのだろう。見えなくても予測はできた。
「さて、どうしたもんか……」
助けて。死にたくはないよ。殺されるのも嫌だ。お願い、何でもするから――訴えているつもりでいるのに、耳の中に音が響かない。観念は必然だった。
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