第七章 N

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「っくしゅん!」  すっかり夜も更けた街を歩きながら、理央は小さくクシャミをした。 誰かが噂してる……とは考えられないほど寒い。疑う間もなく分かる。絶対、この寒さのせいだ。 「せめてマフラー巻いてくるんだった……」 少し先のコンビニに行くだけだから、と義姉の言葉に背を向けて出てきたが……舐めきっていた。 もうこんなに寒いのか。きっと夜だからよけいにそう感じるのだろうが。  すっかり白くなった息を追うように空を見上げる。 「……穏やかだなぁ」 澄んだ空気のおかげか、星がいくつか見えた。 久しぶりにこんなに星が見えてる気がする。 まあ自分は星座などロクに分からないため、見たところで「綺麗」だなんて薄っぺらい感想しか出てこないのだが。  ふと流れ星が目について「あ」と思わず声に出す。 三回願い事を唱えると叶うとか言ったっけ。 願い事、ねえ。 ……俺は……。 「……ん?」 何かに気がついて視線を前に戻すと、少し先にフードを被った誰かが立っていた。体格からして男、か? まあ寒いもんな、なんて思いながら歩みを進め、やがて横を通り過ぎる。 ​すれ違った​──その瞬間。 「」 理央の目が見開かれる。 思わず振り返り「おまえ、まさか」と声に出すが、それと同時に背中に何かがぶつかり言葉が詰まった。 ……いや、これは。 導かれるようにゆっくりと見下ろすと、自分の体からナイフの刃先が出ているのが見えた。 刺された、のか。 理解した時にはすでに遅く、膝から崩れ落ち呆気なくその場に伏せてしまった。 力が入らない。上手く息もできない。いつの間に、もう一人が。 しかし目だけ動かして周囲を見るが、すれ違った男以外。 それに驚いていると。 「聞いてるか」 頭上から聞こえる冷たい声。 淡々と、作業的に問いかけてくるその男を、痛みに顔を歪ませながら見上げる。 よく見えない。が、その目も声と同様に冷たかった。  男はその場にしゃがみこむと理央の背中に刺さるそのナイフを掴む。 理央の首筋に嫌な汗が流れる。 「なに、するつもり……」 「……なんだろうな」 男は静かにそう言うと、掴んだナイフを引き抜いた。 わざと雑に抜かれたことで再び体内を裂かれるその感覚に理央はたまらず声を上げる。 息を荒らげて苦しむのも束の間。 男がその傷口に自身の手を捩じ込ませる。 「〜〜〜〜ッッ!!な、にを……!」 「こうしていると……治らないだろ」 感情の乗らないその声でそう言うと、今度はその中を爪で刺激し始めた。 声にならない声を上げながら、どこか冷静な頭はハッキリと理解していた。 こいつはブレイカーで、このまま治らない状態が続くと俺は……。 こんな日に限って人通りの少ない道を選んだ自分を恨んだが、今さらどうにもならない。  ガリガリと中を引っかかれる。そのあまりの痛みに体は跳ね、目の前はチカチカした。 これは、まずい。 込み上げる血を吐き出していると、頭上から感情の無い声が聞こえた。 「お前繚乱の生徒会だろ。何か知ってるんじゃないのか」 「……っそ、んなこと……!」 「言わないか。それなら別にいい。に行くだけだ」 ……次。自分の他に、誰かをこんな目に……? それは、それだけは絶対、に。  様子が変わった理央を男は静かに見つめる。 「……さぁ、話してもらおうか」
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