あなたは泣いてもいい

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 写真部の部室を訪ねると、石田は気怠そうに煙草を吸っていた。 「どうした」 「彼と別れた」 「そうか」 「彼と一緒にいたら間違いないのに」 「そうだろうな」  石田はしばらく黙って煙草の火を見つめ、灰皿に押しつけ、消した。 「石田と一緒にいると、ずっと隠そうとしていた部分を、剥き出しにされる」 「そうか」 「嫌なところばかり出てくる」 「そうか」 「いつも笑顔で、感じのいい人でいたいのに」  私の言葉に、石田はやっぱり淡々と返す。 「俺は、人間がいつも笑顔でいられるとは、思わない。一人では抱えきれない感情だって、あるだろう」  誰だって感じのいい人が好きだ。感情をぶつけられたって困るだけだ。自分の機嫌は自分で取らなきゃ。  私のそんながんばりを、石田は無意味にしてしまう。今までは私を否定されているように感じていた。 「あんたなんか嫌い」 「そうか」 「嫌い、大嫌い」  石田は眉をひそめている。それはそうだろう。私は石田に抱きつきながらそう言った。
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