走れ!メロン!

13/14
63人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
昔の競輪には、先頭員などいなかった。 だが、先陣を切って飛び出すより、その後ろに着いた方が有利と分かっているのだから、誰も先に行きたくはない。 そこで「トップ引き」と言って、最も競争得点が低い6番の選手が主にスタート後に先頭で走る役目をしていた。 ただでさえ勝ち目が薄い6番が更に不利になるのだ。客としても6番は着順予想から外すしかない。 しかし1973年、何と6番と7番以外の全員が落車してしまったレースで、現在でも公営競技の枠番連勝配当金としては最高記録の2363180円が飛び出したのだ。 さぞかし投票したファンは騒いだ事だろう。 そういった混乱を避け、公平な競技を行う為に、車券の対象にならないトップ引き……先頭員が設定されたのだ。 『あの日、お前と全力で()ったよな。 結果は最悪だったけど、全力でトップを引いたんだ。 そして先にくたばったのは俺だった。お前は倒れる瞬間まで、全然諦めてなかったよな。 お前の中にいるの事を、あんなにかっこいいと思った事はない』 「お、おい」 『俺達は面白がって龍だの虎だのと言われるが、ただのか弱い人間さ。ちょっとくらい速くても、この世界じゃまだまだトップ引きだ。 でも俺は知ってる。お前の中には本物の龍がいる。 ……カミカミでじゃがいもみたいな龍だけどな。 今はお互い6番でいいじゃねえか。 駆け引きはいらねえ。風を切って走れよ、メロン。 そしてトップを引いてそのまま勝っちまえ。一番カッコいい勝ち方だろ? さえ戻れば出来るはずだ。 いいか、次の大会、必ず優勝しろ。 知らないだろうがあそこの競輪場のスタッフには、竜崎ファンが何人もいる。 何より、俺が認めた(おとこ)がダサいままでいる事は許さねえ。早く戻って来い』 一方的に電話は切れたが、竜崎選手の中で何かが繋がった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!