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やがて12月がやって来た。
西郷選手と新庄選手はグランプリ連続出場を決めていた。
九州と関西で地区は違えど同じ西日本、と言う事で今年は二人でラインを組む予定らしい。
居場所を無くした気がする竜崎選手だが、もうそこは遥かに遠い場所。
今年はグランプリ前に開催される下位グレードのレースを走っておしまい。
本来なら大本命として扱われるはずだが、今の調子では果たしてどうやら。
本当に俺はグランプリを走ったのだろうか。
こんなに早く転落したSSがいただろうか。
潔く引退するか、それとも……
競輪選手に定年はない。一定の競争得点さえ保っていれば、何歳になっても続けられる。
例えあんまり勝てなくても。
死ぬほど痛い思いをしてまで、SSなんて、グランプリなんて目指さなくても。
無理をしなくても、A級ならまだまだ十分過ぎる程強い選手なのだ。
迷いながら練習を続ける竜崎選手にある日、電話をかけてきた者がいる。
新庄選手だ。
あれから彼とは一度も会っていない。
トップレーサーの彼と今の竜崎選手は、同じ大会の出場機会がなかったからだ。
あの時は悪い事をした、まずは謝ろうと電話に出ると、新庄選手はぶっきらぼうに言った。
『よう。いつ戻るんだ?』
……いつグランプリに戻って来るんだ、という事だろうか。
「新庄、俺はもう……」
『お前になんか聞いてねえよ竜崎』
「えっ?」
『俺が話したいのはお前じゃねえ。
あの日からお前の中に引っ込んで出て来ない、あいつさ』
……あいつ?
尚もぶっきらぼうに新庄選手は続ける。
『なあ、どうして競輪に「先頭員」がいるのか。知ってるよな』
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